都市国家シンガポールの成長戦略を担う
国土づくり。大規模埋立工事。
貿易の中継地として発展してきたシンガポール。
コンテナターミナルの建設は、国家の将来に関わる重要プロジェクトだ。
鈴木 嗣成Tsugunari Suzuki
1987年入社/農学部 農業工学科 卒
日本国内で地下鉄シールドトンネル工事や護岸工事を経験した後、シンガポール・ジュロン埋立第1期工事に携わる。その後もシンガポールだけでなく、ルーマニアやベトナム、マレーシアでプロジェクトを経験し、2014年に、シンガポールの大型埋立工事のPMに就任した。
山下 大Dai Yamashita
1998年入社/理工学部 土木工学科 卒
ベトナムでコンテナターミナルの建設プロジェクトやシンガポールでの橋梁工事、マレーシアでの石油貯蔵庫建設工事などを経験。今回、シンガポールの大型埋立工事のコンストラクションマネジャーに抜擢された。大規模プロジェクトでコンストラクションマネジャーを務めるのは初めてであるが、やりがいの大きさに気持ちを奮い立たせている。
シンガポール観光の中心地、マリーナ・ベイ地区から海を見渡すと、沖合に停泊している無数のコンテナ船やタンカーが目に入る。シンガポールは東西貿易の中継拠点として栄えてきた歴史を持ち、世界有数のコンテナ取扱量を誇る。物流拠点、石油備蓄港としての存在感を保つべく、さらなる港湾設備の増強・整備が急務である。
今、シンガポールの西部の工業地帯で進められているのが、海をさらに広範囲に埋め立てて、巨大なコンテナターミナルを建設し、シンガポール各地に点在しているコンテナターミナルを将来的に西部地域に集約しようという計画だ。これが実現すると、現在のコンテナ処理能力は2倍近くにまで増強されることになる。この計画の第一弾として進められているプロジェクトに五洋建設が参画しているんです。
こう語るのは、同プロジェクトでプロジェクトマネージャー(PM)を務める鈴木嗣成である。
「このコンテナターミナルには、指のように並んだ埠頭にコンテナヤードが建設される予定です。その1本目を建設するプロジェクトで、今後さらに3本のコンテナヤード建設プロジェクトの発注が控えていました。それらプロジェクトの受注を目指し、弾みを付けるためにも、第一弾となるこのプロジェクトは、何としても逃すわけにはいきませんでした。」
しかし、日本円にすると約800億円にものぼる大規模プロジェクトだけに、競合他社も受注に向けて力を注いでくることは確実だ。五洋建設は韓国企業2社、オランダ企業2社と5社による多国籍共同企業体を編成し、入札に挑んだ。
次第に茶色に変化する浚渫土。これが埋立地の土壌となる。
勢いよく放出される浚渫土。迫力ある現場の状況を動画でご覧ください。(動画 1:05秒)
「このプロジェクトは、入札公告から入札期限まで5カ月ほどしか時間がありませんでした。価格と技術の総合力で落札者を決定する総合評価方式であるため、パートナー企業間とは、競争力のあるコストを算出するだけでなく、どのような技術を採用して工事を行うのかといった技術提案などについても意見をすり合わせていった。」
たとえば、技術評価の項目の一つに構造物の「安全性」があるが、安全についての要求事項は、地域や企業によって異なることがある。規則をクリアしていれば安全と考えることもできるし、規則で定められた基準よりも厳しい管理基準を定めている企業であれば、それをクリアしてはじめて安全だと主張することもある。後者の方が安全に対する意識は高いのかもしれないが、前者の方が安全面に費やすコストを他の部分に振り分けることができよう。どちらが良いとは一概にはいえないため、両者の意見をすり合わせるのが難しくなるのである。どちらを採用するかによって、コストと工法にも違いが出てくる。
「海外で文化の異なる企業同士がしっかりと手を組むには、互いに相手をリスペクトし、納得できるまで言葉を交わすしかありません。何度も協議を行い、課題をそれぞれが持ち帰り検討した結果を、再度すり合わせていくしかない。これは非常に地道な作業です。しかし、この作業で手を抜かなかったからこそ、競争力のあるコストと技術提案につながったのです。また、その過程で互いの考え方を理解し、信じ合える関係性を築くというJVのパートナー同士に欠かすことのできない絆ができたのだと思っています。」
こうして、一番順位を獲得し、受注が決定することとなる。2014年3月初めのことだった。
浚渫能力に加え機動性も高い、五洋が誇る新型自航式ポンプ浚渫船『CASSIOPEIA V(カシオペア・ファイブ)』。
埋め立て作業とケーソンの据付作業を同時並行で行うこため、カシオペア・ファイブの性能が必須となった。
このメガプロジェクトで主に担当しているのが埋立工事である。五洋が最も得意とする工事であるが、「竣工までにはさまざまな障壁が想定されている。」と山下大はいう。彼は施工管理者として浚渫・埋立の全体を見る立場を任されることになった人物だ。
「埋め立て作業を行う工区が非常に狭く、使用できる重機の数が限られている上、工期もかなりギリギリの設定で、序盤工事は難度が高いと考えていました。」
コンテナターミナルの建設予定地から6キロほど南下した海底で埋め立てに使う土砂を浚渫しつつ、コンテナ船用岸壁=ケーソンをつくるための製作ヤードを造成しなければならない。製作ヤードができなければ、ケーソン製作が遅れ、埋め立て作業も進められなくなり、序盤の工事は後々まで影響を及ぼしてしまうからだ。
「五洋建設はこの工事に新造船『CASSIOPEIA V(カシオペア・ファイブ)』を投入した。カシオペア・ファイブは浚渫能力の高さに加え、自船の動力で移動することができるため、他の船で曳航する必要がありません。その分工期も短縮できます。」(山下)
「さらに、埋め立て作業とケーソンの据付作業を同時並行で行うことや、埋め立て予定地の一部が既存航路と重なっているため、工事の進捗に合わせて航路を移設する作業も発生します。予定されている作業や予測できる課題をすべて洗い出して整理し、限られた工期で工事を進められるよう工程を考えます。マネジメント能力が問われるプロジェクトです。」
同プロジェクトの難しさを語りながらも、鈴木や山下は良い表情をしている。「だからこそ、やりがいがある。」と続けた声からも、難しさに臆する気配など微塵も感じられない。それは、このプロジェクトの意義深さを理解しているからではないだろうか。
「五洋は、シンガポールにおいて国の将来を左右するような大きなプロジェクトを任されるポジションにいます。それは、50年という長きにわたって、大勢の先輩方が道を切り開いてきた結果であり、私たちがその意志を次世代へつなげていくために、目の前にある一つひとつのプロジェクトに全力で取り組み結果を積み上げていくことが使命だと思っています。」
この思いは、必ずやプロジェクトを成功へと導くに違いない。
本工事の五洋建設日本人メンバー。写真左上から常長係長、丸野係長、鈴木所長、山下工事課長、阿部担当部長、左下から豊田主任、中島係長、菅原主任。
続いて、カシオペア・ファイブについて、もう少し詳しくご紹介します。
CASSIOPEIA V
最新鋭の自航式ポンプ浚渫船「CASSIOPEIA V(カシオペア・ファイブ)」を
シンガポールの大型埋立プロジェクトに投入。
八塚 直哉Naoya Yatsuzuka
2003年入社/工学研究科 機械システム工学専攻 修了
国内の現場では、那覇沈埋トンネル、羽田空港D滑走路、管理系では技術研究所、船舶の設計などを経て、2012年よりシンガポール駐在に。「CASSIOPEIA V」の建造でも、中心的役割を担う。休日には、スカッシュやバドミントンに汗を流す。モットーは「誠実」。
松藤 広行Hiroyuki Matsufuji
1995年入社/電気通信学部 機械制御工学科 卒
入社以来、陸上土木で主にトンネル工事を担当してきたが、2007年のドバイ駐在以来、海上土木の船舶を担当するようになる。シンガポール駐在は2度目。「海上土木は何といってもスケールの大きさが醍醐味」と語る。学生時代はヨット部に所属し、インターハイ出場の経験も。常にポジティブに、挑戦する気持ちを大事にしている。
海外の海上工事において、欠くことのできない存在である大型自航式ポンプ浚渫船『CASSIOPEIA V(カシオペア・ファイブ)』。浚渫船とは、海底地盤を掘削し、掘削した土砂を大型のポンプで吸い上げる作業を目的とした作業船で、埋立てに使う土砂の採取や、水深を深くするために海底を掘り下げる工事などで活躍する。パイプラインにつなぐことで、掘削した土砂を数キロメートル離れた埋立地まで排送することが可能である。 カシオペア・ファイブのポンプ浚渫能力は、国内最大級のポンプ浚渫船の1.4倍と非常に高い。また、曳船などにけん引してもらう必要のない自航式で、全旋回型推進機を装備しているため小回りが効くなど機動性が高いのも特長だ。国際航海に必要な設備も備えており、世界各地で仕事ができる最高水準のポンプ浚渫船といえる。
「カシオペア・ファイブの建造に向けて動き出したのは、2010年の夏でした。既存船の老朽化も進んでおり、早期に後継船を建造する必要があったのです。」
こう語るのは、カシオペア・ファイブ建造チームのメンバーであり、機械分野を担当した八塚直哉である。
「新型船建造に携わったメンバーのうち何人かは、ポンプ浚渫船の建造経験がありません。当社にとっても大型ポンプ浚渫船をつくるのは1978年以来のことでしたので、カシオペア・ファイブを新造することには会社においても技術伝承というもう一つの大きな意義あるものとなったのです。」
海上土木を得意とする五洋建設として浚渫船などの作業船を自社で保有することは、受注競争を勝ち抜く上で大きな強みになる。しかし、保有し続けるには、メンテナンスの技術だけでなく船を新造するノウハウも欠かせない。技術者たちの経験とノウハウを後進へ伝えるのも会社の発展に大切な要素だ。
アンカー打替用のブーム及びアンカー起こし用ウィンチを装備し、いかり丸等の付属船無しで前進浚渫可能。また自動浚渫モードを搭載し高い施工精度を実現。
浚渫船カシオペア・ファイブに乗船する作業員。様々なパートナー企業の連携からなるオペレーションは、正に五洋の真骨頂だ。
カシオペア・ファイブの建造場所は、シンガポール。五洋建設が同地でポンプ浚渫船を新造するのは初めての試みである。
「日本の造船会社であれば、日本人同士、あ・うんの呼吸で精度の高い仕事ができます。しかし、シンガポールではそういうわけにはいきません。細かいところにまで目を配り、事細かく指示を出す必要がありました。」
エンジンはイタリア製、浚渫ポンプはドイツ製というように、世界各国のメーカーから主要となる機器を調達するため、現地へ品質確認にも赴かなければならない。最新技術も数多く取り入れた新鋭船であり、技術的なハードルも高かった。
「どうして不慣れなシンガポールで……と考えたこともありました。ただ、日本で建造するとコスト的に高くならざるを得ず、今後、国際的な競争を勝ち抜くためには、コストを抑えられる海外での建造経験を積む必要性があったのです。作業船の建造費やランニングコストも、工事で回収するのですから。しかし、シンガポールで建造したおかげで、受注が決まった大型埋立プロジェクトに早期投入が可能になったわけですから、プラスだったといえますね。」
完成したカシオペア・ファイブのお披露目式が2014年6月に行われた後、10月8日にはプロジェクトで浚渫作業を始めた。
「まだ試運転の段階で、カシオペア・ファイブの能力を100%引き出すのはこれからです。実作業をしながら微調整を繰り返し、完成度を高めていくところです。もうしばらくは、目が離せませんね。」
そう語る八塚の目は、まるで子供を見守るような表情だった。
カシオペア・ファイブの船上にて。皆さんとともに仕事できる日を待ってます。
シンガポールの大規模埋立工事で活躍する、五洋建設の世界最新鋭の大型自航式ポンプ浚渫船「CASSIOPEA V」の映像です。(動画 1:10秒)
今もなお続くメガプロジェクト、そこにあるのは確かな技術と志です。
担当社員を通して、国内外プロジェクトの一部をご紹介します。
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