博多の中心地で、
複合商業ツインビルを建設する。
「息子が、学校で『八仙閣は父さんが建てた』と、自慢しているようなんですよ」
こう言って、工事所長を務めた因幡敏秀は、照れ笑いを浮かべた。
因幡 敏秀Toshihide Inaba
1991年入社/建築学科 卒
モットーは愛と情熱。自分自身が愛情と熱い気持ちを絶やさずに継承することで、若い職員が同じ気持ちになって頑張れると考えている。元気で活気のある企業風土をつくりたいと考え、若い社員に日々ハッパをかけている。
松久保 春志Harushi Matsukubo
1980年入社/建築科 卒
何事にも、「人と人との和を大切に」を信条に、やる気と熱意と誠意をもって臨んでいる。建築部工事部長、現場の統括所長を歴任。余暇はゴルフと水泳で身体を鍛え、読書は経済小説を中心に乱読。
発注者の西部ガスが博多中心街にある複数棟を解体して、新に都市型ツインビルを建設するという情報が、知らせられたのは2007年のことだった。ここで飲食業を営む八仙閣は1967年から営業している本格中華料理の老舗であり、地元の名店である。場所も博多駅から徒歩5分のところにあり、改築後は街のランドマークになる建物だ。
「建設予定地周辺はオフィス街で合同庁舎などもある博多の中心街です。この話を受けてから、支店内全体で『受注を果たそう』という気運が高まっていきました。」
同プロジェクトの入札から参加し、既設ビルの解体工事と、一棟目の建設工事までを統括管理した松久保春志は、当時の様子をこう振り返る。
「建設予定地は、以前九州支店が入っていたビルの真向かい。そこに是非とも五洋建設の社旗をなびかせたい思いだった。」
競争入札のライバルは大手ゼネコンを含む7社。非常に厳しい状況だったが、松久保をはじめとしたプロジェクトチームが注目したのが、『VE(Value Engineering)』だ。VEとは、目的物の機能を低下させずにコストを縮減する、もしくは、コストを上げずに機能を向上するといった考えに基づき、具体的な改善案や代替案を提案することだ。つまり、入札価格だけでなく良いものを安く、もしくは予算を増やさずより良いものをつくるための技術力や、購買力などでも勝負するというわけだ。
「入札に際して発注者から提示されていた図面や仕様書を徹底的に読み込み、考えを絞り出して、可能な限りのVE提案を行いました。駐車場としてしか利用しない地下階の天井高を1m低くしたり、柱の強度を保ったまま柱の大きさを見直したりするなど、あらゆる積み重ねでコスト競争力を高めたのです。」(松久保)
入札後に行われた発注者とのヒアリングでも、VEに関する質問がいくつも出た。それだけ発注者側も興味を示していたということだろう。その感触は間違いではなく、2009年6月、見事受注にいたった。
旧八仙閣。右側奥の敷地が駐車場であったため、その地に建設した第1期棟に八仙閣が移転することで、42年の歴史を途絶えさせることなく工事を進めることができた。
完成された複合商業ツインビル「TERASO」。博多のランドマークでもあり、八仙閣を含む大型複合商業施設となった。
正面向かって左が第2期棟(TERASO II)。10階建ての複合商業ビル。
右が第1期棟(TERASO I)。八仙閣を主体とする複合飲食店ビル。
プロジェクトは、工程が6段階に分かれていた。
「最大のポイントは、八仙閣が営業し続ける横で工事を行わなければならない点でした。ビル正面の道路は交通量が非常に多く、日中人通りが絶えません。八仙閣に来店するお客様は、ひと時の食事を楽しむためにいらっしゃるので、工事中とはいえ騒音は最小限に抑える必要があります。安全を確実に確保しながら、限られた敷地の中で、建物の建設とタワークレーンなど建設機械の取り回しをいかに効率よく行うか、私たちにとっては大きな挑戦でした。」(因幡)
また担当したデザインアーキテクトの要求基準も高い。
「第一棟の外装にはコールテン鋼という鋼板が使用されました。これは鋼板の風化を楽しむといった特殊な鋼板で、耐候性を損なうことなく、時の流れを感じさせる風合いを出せる点が特徴です。このコールテン鋼に不規則な格子柄を入れているのですが、その模様を決定するのが、またひと苦労だったのです。」(因幡)
格子柄のパターンをつくり、確認を取るために出来上がったパターンを再度見せると、さらに刺激されてイメージが膨らんでいき、次なる修正点が出てくるということを何度も繰り返した。このようなデザインアーキテクトと発注者の要望にいかに応じるかも、建設会社の技術力の見せどころです。
「発注者の意向で大幅に設計変更が発生することもありました。また、居住スペースとして使用する予定からオフィスへ変更するなど、各フロアの用途入れ替えもあったのです。」
このとき因幡は、すぐさま東京の本社に連絡を入れた。どのようなオフィスを望んでいるのか、イメージをふくらませてもらうために、東京のオフィスビルをいくつか見学できるように手配するためだった。
「発注者の要望に全力で応えるのは、当たり前のことですから。満足してもえる建物をつくるためなら、手間は惜しみません。デザインアーキテクトや建設会社の気持ちも、同じだと思います。いいものをつくりたいんですよ。建築に携わる人間としては。」
施工する我々も外装に施工するカーテンウォールをユニット化して海外のメーカー工場で製作し、現場では足場を組むことなく工期短縮を図るなど工夫を重ねた。そして、2014年2月に竣工。同年4月16日にグランドオープンを迎えることになったのだった。
第1期棟(TERASO I)の正面。独特な風合いの鋼板が不規則でありながら幾何学的な模様を織りなす。
第1期棟(TERASO I)の5階ホール。不規則な格子柄から差し込む光が印象的な空間を演出している。
応募者の皆さんへ、因幡より応援メッセージです。(動画 0:58秒)
「オープン当日に竣工式が行われたのですが、まさに感無量! 安全対策や工程遵守、高品質・高精度にこだわり抜いて、いくつものハードルを超えてきたプロジェクトだけに、無事オープンを迎えられたうれしさが、ジーンと胸に広がっていくようでした」
感慨深げに当時の様子を思い起こす因幡だが、彼が挑戦していたことは、施工方法や技術だけにとどまらなかった。実は、将来の五洋を担う人材の育成という点でも、ある大きな挑戦をしていたのだった。
これだけ注目度の高いビッグプロジェクトであれば、技量の確かな職員を配するところだが、因幡はそうしなかった。工事主任には38歳と32歳という中堅社員を、工事係員には入社3年目と2年目の若手を起用している。
「社内からは、何人かベテランを入れるべきだという声もありました。失敗の許されないビッグプロジェクトですから、そういった声が上がるのも当然です。しかし、これほどいろいろ挑戦できるプロジェクトも、注目を集めるプロジェクトもそうそうあるものではありません。だからこそ、今後を担っていかなければならない若手にこそ、経験してほしかったのです」
因幡には、若手の頃、ベテランの先輩方に囲まれながら、どこか気持ちが萎縮してしまい、存分に自分を試すことができなかったという苦い思い出があった。だから、若手に伸び伸びと目の前のハードルへ挑んでいける環境を与えてあげたかったのだという。
「ベテランに混じって経験しても、もちろん得られるものはあります。しかし、気持ちのどこかが萎縮していると、本来10得られるものがあったとしても、7とか8程度で止まってしまうような気がするのです。それにプレッシャーや責任を肌で感じながら全身全霊で仕事に取り組んだときにだけ感じられる〝何か〟というものも間違いなくあります。この何かを若いうちに経験しておくことが、将来必ず生きてくると思うのです」
因幡が期待していたとおり、本プロジェクトをやり遂げたメンバーは、自信を手に入れたようだ。次の現場へと移っていく彼らの表情には、ひと皮むけた精悍さが漂っていた。
第2期棟(TERASO II)の建物外装に、意匠性の高いカーテンウォールを施工するにあたって、海外の工場でユニット化して製作し、工期短縮を図った。
第2期棟(TERASO II)のエントランスフロア。1・2階は飲食店や食料品店に加えクッキングスタジオなど、様々な形で食にふれあえるおしゃれな空間となっている。
第2期棟(TERASO II)のオフィスフロア。最新の設備を完備したモダンな空間となっている。
第1期棟(TERASO I)と第2期棟(TERASO II)をつなぐ『TERASO GARDEN』。様々なイベントが催され開放的な空間となっている。
今もなお続くメガプロジェクト、そこにあるのは確かな技術と志です。
担当社員を通して、国内外プロジェクトの一部をご紹介します。
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