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2004年
総合的な津波防災対策技術を確立のページです。
What's New
総合的な津波防災対策技術を確立
〜避難行動シミュレーションの開発でソフト・ハードの両面展開へ〜
2004年11月08日
五洋建設株式会社(社長:加藤 秀明)は、山口大学工学部知能情報システム工学科(三浦 房紀教授、瀧本 浩一助教授)と共同で、地震による津波浸水時に人々が災害から逃れる避難行動を模擬実験し、避難場所・避難経路の検討に活用できるソフトウェアシステム 「避難行動シミュレーション」を開発しました。当社はすでに津波浸水シミュレーションや地理情報システム(GIS)による資産被害評価システムを構築しており、これらソフト技術と防波堤・水門などのハード技術を複合させ、総合的な津波防災対策を提案してまいります。
開発の背景
臨海部に人口と資産が集中しているわが国は津波・高潮による被害を受けやすく、これまでにも多くの人的被害を伴う災害が発生しています。このような津波による人的被害を軽減するために、防波堤や防潮堤、水門等の津波防護施設整備が進められていますが、対策が必要な海岸線延長は膨大で多大な時間とコストが掛かります。そのため、これらハード面の整備を進める一方、津波による地域の危険度を表示したハザードマップを整備し、それに基づいた避難計画を策定するなどソフト面の対策も重要です。
しかし、津波ハザードマップは津波来襲時の浸水深さや津波到達時間などの危険情報の提示にとどまり、現状では地域レベルでどの程度の人的被害が想定されるのか示されません。そこで、ハザードマップによる津波危険度情報に加え、人的被害の推定が可能となれば、今後どの程度の津波防災施設の整備・拡充が必要か具体的に判断でき、より効果的な地域津波防災計画が立案できるようになります。
人的被害の推定には、住民の避難行動を再現するシミュレーションソフトの活用が有効です。この技術分野では、地下街やビル火災時の群集の避難行動を再現・予測する技術として活用事例があり、 津波浸水時の住民の避難行動予測に対しても適用できる本格的な避難シミュレーションの開発が望まれていました。
避難行動シミュレーションの概要
開発した避難行動シミュレーションは、津波浸水シミュレーションで得られた津波浸水エリアなどの災害情報をインプットデータとして受け取り、これに人間の行動心理や地域性、避難時の歩行速度などの設定条件を加え、地理情報システム(GIS)の位置情報や時間情報を活用しながら、人々が災害から逃れる状況をシミュレートするソフトウェアです。
検討地域の実際の道路を詳細から広域まで画面表示し、住民が避難を開始しその道路上を移動・避難を完了するまでの状況を再現します。シミュレートにあたっては、住民の被災時の行動について次のような避難パラメータ(媒介変数)の設定を行ない、各人はこれらの設定に基づいてシミュレーション内で避難行動を行ないます。
住民行動についてのモデリング | 地域性についてのモデリング |
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住民の避難時歩行速度については、水中歩行実験を行ない、浸水時の水深と流速が避難者の歩行速度にどのように影響を与えるかを検討し、その結果を避難パラメータ設定に活かしています。また、避難者モデルや地域性については、対象地域の住民へのアンケートなどを行なって条件設定をします。さらに、必要に応じて上記以外の避難パラメータをいくつも加えることができるので、津波浸水時の避難行動再現に適した高精度なシミュレーションを実現します。
陸上部の津波浸水予測結果と同時刻の住民避難状況の予測結果とを組み合わせて解析し、人的被害の量的予測を行ないます。これにより、津波災害時の住民避難上の課題を抽出できるので、人的被害の低減に向けたより現実的な避難計画の立案や、効果的な津波防護施設の整備のあり方、優先的に耐震補強を進めるべき施設の具体的な提示、あるいは緊急避難的ではあっても整備を進めるべき避難施設の検討・提案などを行うことができます。
<避難シミュレーション画面イメージ>
(クリックで拡大)
- 上記画面は地震発生から25分経過後の状況。
- 青色メッシュ部分は50cm以上の浸水箇所、赤色は100cm以上の浸水箇所を表す。
- 黒点は避難民の移動状況を表し、大きい円は避難場所を示している。
- 避難パラメータの設定により、黒点の避難民それぞれの行動は同一ではない。
総合的な津波防災対策技術の展開
当社は2003年4月に東北大学付属災害制御研究センター(今村 文彦教授)と共同で、資産被害の評価システム「GISを活用した津波防災事業の定量的な評価手法」を開発・発表しています。これはGIS上で整理した津波浸水領域の家屋・家財資産、事業資産等の津波被害額を津波浸水シミュレーション結果から評価し、これらの資産被害額と津波防災事業の整備コストとの関係から費用対効果分析を行なって事業評価に活用するものです。
津波浸水シミュレーション、GISによる資産被害の評価システム、今回開発の避難行動シミュレーションを組み合わせることで、人的資産をはじめとする各種資産の被害軽減に関わる便益評価をより高精度に行なえます。便益評価をもとに、最も効果的な防災施設建設、耐震補強やリニューアル事業の提案を行なうなど、ハード対策への展開に活かしていくことが可能です。また、これをソフトツールとして学校や家庭などでの防災教育に活用したり、住民参加のワークショップや住民説明会など地域社会の合意形成の場に活用していくこともできます。
今後、当社では地震時の強い揺れによる海岸防護施設の被災を考慮した津波浸水シミュレーションおよび避難シミュレーションを実施する予定です。また、これらソフト技術を活かして津波災害に強い防波堤や水門など海岸防護施設の提案も積極的に進めていく方針で、ソフトとハード技術を結集した総合的な津波防災対策を展開したいと考えています。
以上