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2004年
鉄筋コンクリートの劣化診断システムを共同開発のページです。
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鉄筋コンクリートの劣化診断システムを共同開発
2004年01月16日
五洋建設株式会社(社長:加藤 秀明、東京都文京区 03-3816-7111)、中央大学理工学部土木工学科コンクリート研究室(助教授:大下 英吉、東京都文京区 03-3817-1801)、NEC三栄株式会社(社長:設楽 恒男、東京都立川市042-522-0486)は、コンクリート構造物を維持管理するための非破壊検査手法として、構造物の鉄筋腐食の有無および鉄筋の腐食量、内部空洞の位置を高精度に把握できる 「鉄筋コンクリートの劣化診断システム」 を開発しました。
(1)背景
コンクリート構造物は従来メンテナンスフリーであるとされてきましたが、塩害による鉄筋腐食などにより、かぶりコンクリートの剥離・剥落等が発生するなど、劣化や欠陥によってコンクリート構造物が損傷を受けていることがあります。そのため、コンクリート構造物の所要の性能を損なわずに効率的に維持管理していくことが重要です。
(2)システムの概要
本システムは赤外線サーモグラフィと鉄筋加熱、熱伝導解析により劣化診断を行うものです。手順は以下の通りで、図−1に診断・解析フローを示します。
- 対象構造物の表面温度を赤外線サーモグラフィで測定する。
- 鉄筋コンクリート構造物内部の鉄筋に数分間通電し、鉄筋の強制加熱をおこなう。
- 強制的に加熱された鉄筋からコンクリート表面へ熱が移動し、コンクリートの表面温度が上昇する。
- コンクリート表面の温度を熱画像(赤外線サーモグラフィ)履歴として保存する。
- 熱画像履歴データを逆解析的な熱伝導解析ソフトに入力することにより、
i鉄筋腐食の有無、
ii鉄筋腐食度合い、
iiiコンクリートのひび割れ性状や内部の空洞状況
を高精度に同時測定します。
図-1 診断・解析フロー
(3)本システムの特長
i.鉄筋腐食の有無、ii.鉄筋腐食度合い、iii.コンクリートのひび割れ性状や内部の空洞状況といった3項目を同時測定できる 技術は、他の非破壊診断方法にみられず、しかも本システムは赤外線サーモグラフィの利点を生かし、一度に広範囲な測定が可能です。
また、構造物外部から赤外線サーモグラフィのみで非破壊検査すると、気温等が対象構造物の表面温度に影響を及ぼし、診断が不十分ともなりかねませんが、本システムはコンクリート内部で鉄筋を強制加熱し、それによる構造物の表面温度を赤外線サーモグラフィで測定するため、気温など外部環境の影響は受けにくいものとなります。
i.鉄筋腐食の有無の診断
錆は健全な鉄筋に比べ、その熱伝導率は小さくなり比熱が大きくなります。すなわち、腐食部分が断熱材の役割を果たし、鉄筋を加熱した場合のコンクリートへの熱伝導は、健全な鉄筋に比べて小さくなります。したがって、鉄筋を加熱した場合のコンクリート表面の温度は腐食鉄筋と健全な鉄筋の上面では異なるものとなることから、赤外線サーモグラフィでコンクリート表面温度を測定することによって鉄筋腐食の有無を診断することが可能となります(図−2)。
図-2 鉄筋コンクリート断面
(クリックで拡大)
ii.鉄筋の腐食度合いの診断
鉄筋の腐食度合いと比熱や熱伝導率とは高い相関関係があり、鉄筋の腐食が進行しているほど鉄筋の断熱効果は高くなります。得られた熱画像履歴とそれに基づく熱伝導逆解析を行うことで、鉄筋腐食領域の比熱や熱伝導率が求められます。それによって鉄筋の腐食度合いを高精度で測定できます。
iii.コンクリートの内部の欠陥やひび割れ性状の診断
コンクリート内部の欠陥箇所には空気或いは水分が存在し、それらの熱伝導率はコンクリートに比べて非常に小さいものです。そのため、本システムを適用すると内部欠陥箇所のコンクリート表面温度は、健全な部分と比べ低い温度となります。また、コンクリート表面から鉄筋まで貫通した腐食ひび割れ箇所においては,熱が鉄筋からひび割れ部に直接放熱されることから、他の部分に比べ高温となります。
(4)基礎実験の結果
これまで、比較的規模の大きい供試体(1.5m×1.5m×0.3m)を用いて実験を行ったところ、良好な適用性を得ることができました。
供試体には、あらかじめ内部に健全な鉄筋、僅かに腐食した鉄筋、腐食が進行した鉄筋と3種類の鉄筋を配置し、さらに内部欠陥を模擬するために発泡スチロールをかぶり部分に配置してコンクリートを打設しています。図−3に使用した供試体の写真を、図−4は供試体内部の鉄筋および内部空洞を模擬した発泡スチロール配置図です。
(1)鉄筋腐食診断結果
図−5は鉄筋加熱後の熱画像で、図−6は中心部付近のコンクリート表面温度履歴をグラフにしたものです。腐食が進行した鉄筋のコンクリート表面温度は、他の鉄筋に比べ温度上昇が小さいことがわかります。
(2)内部空隙診断結果
図−7は内部空隙位置を診断する画像です。鉄筋直上に内部空隙が存在するところのコンクリート表面温度は、他の鉄筋部分に比べ低温となっています。
図-7 内部空隙位置の診断
(クリックで拡大)
(5)本システムの適用性
本システムはすべてのRCコンクリート構造物に適用可能です。新設の鉄筋コンクリート構造物に対しては本システムの適用を見越し、あらかじめ鉄筋通電用の電極をコンクリート表面に設置することで容易に測定が可能となります。
(6)今後の開発
鉄筋腐食の有無およびコンクリート内部空洞の位置推定については、実験で適用性を確認したので、今後は鉄筋腐食量の高精度の推定を行うべく逆解析ソフトの開発も進めてまいります。また、実物大構造物でその適用性を早急に確認し、コンクリート構造物の非破壊調査診断法として積極的に活用していきたい方針です。