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プロジェクト
プロジェクトストーリー
熊本57号笹原トンネルのページです。
熊本57号笹原トンネル ― デジタル技術を駆使し、未来の現場を創る ―

現場位置図(画像拡大)
熊本市を起点に宇土市、宇城市、上天草市を経由し、天草市に至る延長約70qの地域高規格道路「熊本天草幹線道路」の整備が進む。道路網の充実により熊本県内各地域から熊本市までを90分で結ぶ「90分構想」を掲げる熊本県にとって欠かせない重要な役割を担う道路の一つだ。国土交通省九州地方整備局が熊本県と連携し、地域間交流の活性化と災害に強い道路ネットワークの形成に力を注いでいる。
笹原トンネル新設工事は熊本天草幹線道路の一部となる国道57号バイパス道路「宇土道路」6.7qの北端部に計画された。糖塚山の尾根を貫く延長679mの2車線トンネルをNATM工法で建設するものである。掘削断面が100m2を超える大断面トンネルで、最大土被りは約70m。計画域の地質は新生代第四紀大岳火山岩類の自破砕状安山岩で構成され、地山等級の主体はD〜CL級である。
掘削方式は風化安山岩質自破砕溶岩の一軸圧縮強度が49N/mm2程度以下であることから大型機械を用い、上半先進ショートベンチカット※工法で2022年2月に終点側(天草市方面)から掘削を始めた。目立った湧水もなく、鏡面も比較的安定していたことから、坑口部の先受け工施工区間を除き、鏡吹付けコンクリートを併用することで概ね順調に掘削が進捗。2023年1月に貫通し、同年7月に工事を完了した。
※トンネル断面を上下に分割し上半分を先に掘り進める工法。上下併進する形がベンチのような形となることからこの名がある。ベンチ長50m以下で掘削する場合、ショートベンチカット工法という。
「90分構想」の実現に向け整備が進む熊本天草幹線道路(画像拡大)
■出典:九州地方整備局八代河川国道事務所ホームページ
デジタルツイン※で「トンネル自動化施工」実現へ
国土交通省が実施する2022年度の「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」(PRISM)に当社を代表とするコンソーシアムの提案が採択され試行現場に選ばれた。技術I「AI、IoTを始めとした新技術等を活用して土木または建築工事における施工の労働生産性の向上を図る技術」と技術U「データを活用して土木工事における品質管理の高度化等を図る技術」を試行した。 トンネルのデジタルツインを構築し、さまざまな計測データを可視化するとともに、測量や施工の自動化に挑戦した点が大きな特徴だ。仮想空間上にもう一つのトンネルを正確に再現し、仮想空間側からICT建機を自律・自動で制御するなど、GPS/GNSSが使えないトンネル坑内でデジタル技術を駆使しながら生産性や安全性、品質の向上を追求した。
※現実の情報をデジタル上に再現すること
技術I「AI、IoTを始めとした新技術等を活用して土木又は建設工事における施工の労働生産性の向上を図る技術」
実施内容
デジタルツインを活用した施工管理と遠隔臨場
五洋建設株式会社 | 国立大学法人大阪大学 | 株式会社ショージ | NSW株式会社 | 株式会社ネクストスケープ |
全体管理、クラウド運用、BIM/CIM対応、機器調達/運用 | BIM/CIM表現検討・指導 | 無人化施工用バックホウ提供・改造 | IoTデータ分析 | VR/MRシステム運用、デジタルツインサーバー運用 |
現場の施工管理情報をクラウドに集約
当社ではこれまで自社開発の施工情報収集共有システム「i-PentaCOL」(アイ・ペンタコル)を使い、現場でのBIM/CIMの活用を後押ししてきた。今回のデジタルツインはその発展系という位置付けだ。
車両や施工機械の配置、坑内観測データ、施工管理データといった現場の施工管理情報をクラウド上のデジタル上の現場に集約し、日々の管理業務(施工・労務・安全等)の低減や書類の削減などを図った。デジタルツインはWEBとVR空間が連携しているため、タブレット端末やパソコン画面上でデジタル上の現場を常時閲覧でき、VRデバイスでデジタル上の現場に没入することも可能だ。実寸大で現場の状況が確認でき、切羽近傍など危険な施工エリアでの打合せも人数制限なく行えるため、安全性も飛躍的に高めることが可能となった。
BIM/CIMを関係者に共有・活用するシステムで現場の施工管理情報を一元化
大幅な省人化、省力化を実現
施工状況の把握が可能なデジタルツインの情報を取り込んで、適切なタイミングで起動から移動、施工、退避に至る一連の動作を自動化した。当現場ではバックホウによるインバート掘削(ブレーカ作業)を自動施工の対象とし、オペレーターと計測作業員を不要とした。トンネル坑内は非GNSS環境であるため、自動運転機械は取得した点群同士を重ね合わせるSLAM技術を導入し位置推定を行った。また、インバート掘削の出来形確認には測量用三次元スキャナーを搭載した自動巡回ロボットを使用し、高精度な掘削誘導に役立てた。
デジタルツインで見たインバート掘削の制御状況
ICTを搭載した大型ブレーカーによるインバート掘削
技術U「データを活用して土木工事における品質管理の高度化等を図る技術」
実証内容
自動巡回ロボットを用いたトンネル覆工の出来形管理
五洋建設株式会社 | 国立大学法人大阪大学 | 株式会社ネクストスケープ |
全体管理、BIM/CIMモデル作成、ロボット調達/運用 | BIM/CIM表現検討・指導 | デジタルツインサーバー運用 |
覆工コンクリート厚さを面的に把握
インバートの掘削に使用した3次元レーザースキャナーを搭載した自動巡回ロボットが山岳トンネルの施工エリアを巡回。コンクリート吹付け面の形状や脱型後の覆工コンクリート面の形状を面的に計測した。取得した点群データをクラウドに送信し、デジタルツインによって形状や厚さを自動算出・可視化する。覆工打設前後の点群データ同士の差異で自動的に覆工コンクリートの厚さをヒートマップで表現することで厚さを面的に把握できる。さらに、点群データをVR空間内で手動計測できる仕組みも構築。VR機能を使ってデジタル現場に没入した際に遠隔地からでも簡単に計測しながら出来形を確認できるようにした。従来の検測孔を用いた厚さ確認が不要になるなど、現場管理作業の大幅な削減につながり得ることを確認した。DXに向けた管理基準改定を目標とした取り組みであり、今回の検証結果を踏まえ、ロボットが人の作業を代替することが可能となるような管理手法を提案する。
四足歩行ロボットに3Dレーザースキャナーを搭載し自律で坑内の出来形管理を実施
所長インタビュー
工事所長 渡邊 伸弘
PRISMの試行現場で実証を終え、デジタルツインが将来的にトンネル工事の自動化に欠かせないことを確信しました。そしてもう一つ大切なことは「BIM/CIMの最大活用」です。AIやロボットが計測、解析し見える化したBIM/CIMを職員やオペレーターがデジタルツイン上で管理し制御できるなど、これまでのBIM/CIM以上に拡張性を感じました。
デジタルツインを活用し施工管理情報やIoTセンサーなどのデータをクラウドに集約することで、管理業務の負担軽減に大きな効果が期待できます。また、職員は常に最新のモデルを活用し品質や工程の管理に注力できる点も大きなメリットです。今後の実用化に伴い、余掘りの縮減などによる施工効率の向上、高精度な面的管理に伴う品質向上、重機近傍の現場作業が減ることによる安全性の向上等が大いに期待できます。
これまで環境的に難しいと言われてきたトンネル施工の自動化がデジタルツインの導入で現実に一歩近づいたという感触を得ています。ICT分野の発展・進化はめざましいものがあり、今後は適用範囲をさらに拡大していきたいと考えています。
工事名称 | 熊本57号笹原トンネル新設工事 | |
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工事場所 | 始:熊本県宇土市笹原町 終:熊本県宇土市網津町 |
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工期 | 2021年2月23日〜2023年7月31日 | |
発注者 | 国土交通省 九州地方整備局 | |
施工者 | 五洋建設(株) | |
工事概要 | トンネル | |
トンネル(NATM) | L=679m | |
覆工・防水工 | L=677.6m | |
インバート工 | L=518.8m | |
坑門工 | 2箇所 | |
道路改良 | ||
掘削工 | 5,480m3 | |
盛土工 | 5,280m3 | |
カルバート工(2.0m×2.0m) | L=34.0m | |
カルバート工(5.0m×3.3m) | L=15.6m |