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多摩川スカイブリッジ ― 川崎・羽田、つながる未来 ―
施工位置図
多摩川スカイブリッジは、川崎市殿町(キングスカイフロント)と東京都大田区の羽田空港(羽田グローバルウイングズ)を結ぶ「羽田連絡道路整備事業」として計画された。軟弱な地盤条件や航空制限、生態系保持空間、干潟の保護など様々な制約条件がある中、当社を代表とする6社JVが技術力と英知を結集。2017年の工事着工から約4年半、2022年3月12日に待望の開通を迎えた。
橋長は約675m。川崎側の取付部は擁壁による盛土区間と鋼2径間連続鈑桁橋で構成する延長72m、渡河部は鋼3径間連続鋼床版箱桁橋の延長602.2mとなっている。河川内に構築するRC橋脚2基は、橋桁重量の削減や支承の省略などによる経済性や耐震性とともに、鳥類の飛翔阻害面積の抑制や圧迫感の低減を図るため、鋼上部工とRC橋脚を剛結した複合ラーメン構造※とすることで、中央支間長240mを有する国内最長の複合ラーメン橋を実現した。同時に最大桁高を7mまで抑え、河口の水平基調の景観に調和したスレンダーな景観美も創出している。
※ラーメン構造:垂直の柱と水平の梁から成るフレーム構造で、その梁と柱の結合部を一体化させた構造体
英知を結集し、厳しい制約・施工条件を克服
鋼管矢板井筒基礎で高耐力確保
施工エリアは水深が浅く、作業船が航行できるよう浚渫を行ってから下部工の施工に取りかかった。渡河部の支持層はGL-40から-50mと深い。中央支間長240mの箱桁を二つの橋脚(P3、P4)で支えながら、想定する最大規模の地震への耐力を確保するため鋼管矢板井筒基礎を採用した。通常、φ1200oという大径の井筒基礎の鋼管矢板を打設するには、杭打ち船など杭を垂直に打ち込むリーダーを備えた作業船で行う。ここでは航空制限や水深が浅く入域できないため橋脚の両側に作業構台を構築し、200t吊クローラクレーンを配置して、バイブロハンマーと国内最大級の油圧ハンマーで打設するフライング工法で打設した。
鋼管矢板を接合する継手には、せん断剛性・せん断耐力に優れ、経済的かつ迅速な施工を可能にする高耐力継手を採用。これによりP3橋脚では隔壁数を基本設計時の4列から2列に減らし、長さも32.5mから29.6mと約10%縮小できた。
井筒状の基礎の打設後は内部を掘削し橋脚躯体工をスタート。井筒内に支保工を設置し頂版コンクリート、躯体コンクリートを打設していった。コンクリートは、河川工事では珍しいコンクリートプラント船を使い、打設日ごとに現地までえい航した。河川内橋脚の基礎工は実に1年を要した。
- 橋脚躯体工施工状況
- P4橋脚躯体が完了
- 高耐力継手
- 高耐力継手採用による基礎形状のスリム化
鋼桁、RC橋脚を鉄筋定着で剛結
柱頭部配筋状況
複合ラーメン橋の要となるのが上部工と下部工の剛結部だ。施工精度や作業効率の向上に向けた検討を重ね、鉄筋定着工法を取り入れた。鋼桁下フランジ※にφ100oの鉄筋挿入孔(P3橋脚256箇所、P4橋脚244箇所)を設け、そこに鉄筋を挿入してコンクリートを充填し剛結する。当初は針山のように配筋された所に鋼桁を架設する計画だったが、架設後に鉄筋を孔に差し込み、機械式継手で橋脚の鉄筋を接合する方法に見直し作業の迅速化を図った。剛結部へのコンクリート充填は桁内の空間が狭く過密配筋である上、打設用の開口も小さく十分な締め固めが困難だったため、こうした条件下でも施工可能な高流動コンクリートを採用した。使用にあたっては温度応力解析を行い、温度応力ひび割れ状況の確認やコンクリートプラント船での試験練りなど技術的な確認を行った。
※フランジ:曲げに対する力を受け持つ部材
橋梁架設図(画像拡大)
4種類の架設方法で効率化
渡河部602.2mの上部工施工では航空制限など制約条件を満たしながら剛結部の鋼桁や橋脚に負担をかけない架設手順を考慮した結果、4種類の架設方法を複合的に採用することになった。
1)フローティングクレーン(FC)架設
剛結部の柱頭部桁は120t吊固定式起重機船「HAKKEI-120」を使い架設。鋼重が約700tに及ぶため、クレーンでの一括架設が難しく、6分割して据え付けた。
2)台船架設・一括吊上げ架設
台船架設は、4000t級台船で橋桁を満潮時間に狙って現地までえい航し、潮位が下がっていくタイミングを計りながら慎重に設置した。初回架設後、令和元年東日本台風の影響により架設作業を中断した。河川に堆積した大量の土砂の再浚渫が完了した6か月後に、2回目の架設を実施した。国内最大の支間長240mを有するP3-P4橋脚間の閉合部80mについては、両側の鋼桁に設置した4台の200tジャッキングホイストで約1100tの鋼桁を約7.2m吊上げる一括吊り上げ架設を取り入れた。閉合部の吊上げブロックと両側のブロックとの継手遊間は、わずか20oで仕口の接触を避けるために仕口角度をハの字形状にする工夫を凝らし、安全かつ高精度で架設した。その後P4-P5橋脚間の2ブロックの架設を行い合計5回の台船架設が完了した。
- 1回目の台船架設
- 台船・一括吊上げ架設
3)張出し架設
東京側のP4-P5橋梁間約70m、およびP3より川崎側60mの張出し架設は、航空法による高さ制限(高さ最大49.5m以内)や生態系保持空間(川崎側に広がる干潟の一部)への影響を抑えるため、国内最大級のトラベラクレーン650t・mを配置し行った。東京側は別工事で構築されたP5橋脚の沓座と最終的に合わせる必要があるため、通りと高さ、ウェブ※間隔など断面を確認しながら慎重に施工。設計段階では張出し延長約70mにおける許容誤差50oとしていたが、実際は誤差3o程度と計画の10分の1以下に収めることができた。
※ウェブ:せん断応力を受け持つ部材
- 張出し架設状況
- トラベラクレーン
桁上に走行軌条設備を設置し、トラベラクレーンを
前進させ桁を架設する
4)送出し架設
川崎側のP2-P3橋脚間には生態系保持空間があり、桁を仮受けする支柱などの仮設構造物を設置できなかった。そのため、P2-P3橋脚間を結ぶ長さ104mの桁には送出し架設を採用した。送り出し延長が149.25mと長くなるため、送り出す桁のたわみ量が大きくなる。当工事では、そのたわみへの対策として、通常は架設する桁の先端に取り付ける手延べ機(安全に送出し架設をするために架設する桁に取り付ける機材)を架設する桁の上部に配置して送り出した。また、手延べ機の先端にジャッキで桁のたわみを処理する装置を設置したほか、到達側の桁上には送出し架設する桁の水平を維持しながら降下できる装置を設置するなどの対策もおこなった。これらにより、送り出し完了後に行う架設桁の降下作業は、通常10〜15mを降下させるところ、平均0.5mの降下量に抑え、降下設備の規模を縮小できた。
- 送出し架設(手延べ機)
- 送出し架設
環境保全への取り組み 〜干潟を保全・回復
施工地には生態系保持空間を含む貴重な干潟が存在し、そこに生息する生態系への配慮が欠かせない。工事に先立ち「環境モニタリング計画」を策定。計画に基づき四季の環境調査を行い工事に伴う環境への影響を把握した。川崎側のP3橋脚の構築では貴重な干潟の一部を浚渫で改変する必要があったため、環境モニタリング計画と同時に「干潟の保全・回復計画」も作成。鋼矢板による土留めを設置し、浚渫範囲を最小限に抑えるとともに、浚渫範囲と生態系保持空間の間に緩衝帯を設けて、残存する干潟や生態系保持空間の浸食防止に努めるなどの対策をおこなった。浚渫した干潟の土は底生動物の生息に適した土質組成となっているため工事後の干潟の復元時に再利用した。
- 仮設鋼矢板概要
- 干潟埋戻し完了全景
所長インタビュー
特定工事所長 陶山 健太
本工事は、上部・下部の一体型橋梁工事として極めて難易度の高い施工が求められることから、工事着手時から異業種で技術力・組織力をいかに発揮するかを考えていました。さらにその中で、様々な利害関係者との調整や課題解決に取り組みました。
思い出に残る出来事は令和元年東日本台風に伴う被災です。近隣工事との連携が必要となり、「オール多摩川」と称して施工会社に相互協力を呼び掛けました。浚渫船の調達協力など施工会社同士の垣根を越える助け合いが、中断を余儀なくされた上部工桁架設の早期再開につながりました。工事に携わった延べ約12万人に及ぶ技能者と約80人のJV職員、そして発注者の皆様に感謝を申し上げます。
工事名称 | 都市計画道路殿町羽田空港線ほか道路築造工事 | |
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工事場所 | 神奈川県川崎市川崎区殿町、東京都大田区羽田空港2丁目地内 | |
工期 | 2017年6月23日〜2022年3月31日 | |
発注者 | 川崎市 | |
設計者 | 五洋・日立造船・不動テトラ・横河・本間・高田共同企業体 | |
施工者 | 五洋・日立造船・不動テトラ・横河・本間・高田共同企業体 | |
工事概要 | 詳細設計業務 | 一式 |
施工業務 | 一式 | |
逆T式橋台(A1橋台) | 1基 | |
T形橋脚(P1橋脚・P2橋脚) | 2基 | |
壁式橋脚(P3橋脚・P4橋脚) | 2基 | |
鋼2径間連続鈑桁橋(A1〜P2、L= 72.00m) | 一式 | |
鋼3径間連続鋼床版箱桁橋(複合ラーメン) | 一式 | |
(P2〜P5、L=602.2m) | ||
逆T式擁壁 | 一式 | |
河川内浚渫 | 一式 |