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東京国際クルーズターミナル ― 東京の新たな玄関口 部門間連携で海上に客船ターミナルを建設 ―
施工位置図
首都東京の新たな玄関口として、「東京国際クルーズターミナル」が2020年9月10日に開業した。
東京港はこれまで晴海客船ふ頭においてクルーズ船を受け入れてきたが、クルーズ船の大型化によりレインボーブリッジの桁下を通過できない事例が増えていた。近年の世界的なクルーズ船需要の増加に対応するため、レインボーブリッジの外側に大型クルーズ船の入出港が可能なふ頭の整備が求められていた。「東京国際クルーズターミナル」はこうした要請に応えるために臨海副都心の青海二丁目地区に計画された。
海上にジャケット式の人工地盤(桟橋)を構築し、その上に桟橋と一体構造のクルーズターミナルを建設するという土木・建築一体構造の建築物となった。
当社の強みである「部門間連携」によって数々の難題を克服し、この規模では日本で類を見ない特殊な構造の構造物を無事完成させた。
施設概要
当施設は延長430m、水深11.5mの桟橋を有し、世界最大級のクルーズ船にも対応する。外観は海の波、船の帆をイメージし、大きくうねる屋根が特徴だ。1階にエントランスホール、2階にCIQ(税関・出入国管理・検疫)検査スペース、バゲージホール、観光案内所、3階にCIQ検査スペース、4階には送迎ラウンジを配置。3・4階は吹き抜けになっており、寄港がない時期には音楽コンサートや展示会を催せるスペースとなっている。
- 4F 送迎ラウンジ
- 吹き抜けで解放的なロビー
当施設の一番の特徴は、ターミナルビルと桟橋が一体構造になっている点だ。桟橋の鋼管杭とターミナルビルの鉄骨柱との接合部にコンクリートを充填して一体化させることで、ターミナルビルと桟橋を海底の地中深くにある支持地盤で支えている。
桟橋・ターミナルビル一体構造(模式図)
人工地盤上にターミナルビルを建設
海上にせり出したターミナルビルの建設
ターミナルビル建設工事は、東面が海に面しているほか、西面は別途工事による岸壁工事エリアとなっているため、限られた敷地内で施工ヤードの確保、海上または別途岸壁工事エリアにせり出した外部足場計画など、桟橋上建物特有の課題があった。
桟橋形式の人工地盤とターミナルビルの一体構造物である今回の建物の一番の課題は、土木工事(本プロジェクトストーリーの後半で紹介する「関連工事紹介」参照)で施工された鋼管杭と建築工事で施工する鉄骨柱の接合部をいかに精度よく施工するかという点であった。ターミナルビルの鉄骨柱を正確な位置に建てるために、鋼管杭内にセットプレートを設置し、その上に鉄骨柱を建てた。セットプレートとは、鉄骨柱を挿入する開口部がある鋼材製のプレートだ。開口部の位置を調整することで鋼管杭の許容誤差を吸収し正確な位置に鉄骨柱を建てることができる。セットプレートを製作するにあたり、計48本すべての杭の施工記録と実測値を照合し、その結果に基づいて48種類のセットプレートを作成した。
さらに、この接合部に対して密実にコンクリートが充填できるように、木材とアクリル板を使用したモックアップを作成し実際にコンクリートを打設することで施工性および充填性を事前に確認し、製作・施工に反映した。
- 柱脚接合部
- モックアップ(柱脚部)
施工時は建物の東西が海上であり、外周からの鉄骨建方が困難であった。建屋内の敷地を施工ヤードとして利用し、70tラフタークレーンを使用して敷地の奥から鉄骨を組み立て、徐々に敷地の手前の方に移動していく方法(建て逃げ方式)で施工した。
また、建方完了後のコンクリート打設や、資材の搬入スペース・車両動線を確保するため、梁行3スパンのうち、中央スパン部分を後施工とした。これらの施工手順はBIMモデルを用いて検討し、ステップ図を作成して関係者間で共有。さらに、日々の打合せで各作業を確認することで計画通り実施することができた。
BIMモデルによる施工手順確認(建て逃げ方式)
うねる屋根の施工
東京国際クルーズターミナルは、海の波、船の帆をイメージした大屋根が特徴的だ。徐々にねじれていく形状の屋根であるため、屋根材には3次元的に施工可能な、ステンレス防水シーム溶接工法を採用した。
また、屋根材の加工作業を別の岸壁桟橋上に構築したステージで行うことで省力化を図った。
屋根曲面の仕上がりは、鉄骨母屋の取付精度に左右されるため、最適な鉄骨の傾度や寸法を割り出し鉄骨製作を行わなければうまく組み上げることができない。そこでBIMによる3次元モデルを活用し、屋根の位置・レベルを確認しながら、細かく切り出した断面図から部位ごとに異なる製作寸法を決定して、鉄骨製作を行った。3次元モデルを活用して下地鉄骨の製作に反映したことで、美しい曲線の屋根とすることができた。
なお、屋根の施工時期が台風シーズンと重なったこともあり、野地板の留め付けビスピッチを通常より細かく設定するなど、海上への資材の飛散防止に十分配慮して施工を行った。
- 「そり」をイメージした大屋根
- 屋根レベル検討
外壁の施工
外壁は最大高さ約16mのアルミカーテンウォールと押出成形セメント板で構成されている。外壁についても屋根と同様に、幕板パネルの曲率との整合を図ることが課題となり、BIMモデルを活用して天端レベルの設定を行い製作した。3次元モデルを用いて、屋根-幕板-外壁の整合を図ったことで、それぞれの取合いを計画どおりに納めることができた。
さらに、設置場所が海および別途工事の岸壁工事エリアとなる東西面の張り出しブラケット足場の計画もBIMモデルを活用した。このように工事進捗に合わせた仮設計画を視覚化して共有することで、安全かつ円滑に施工することができた。
- BIM モデルによる張出しブラケット足場の検討
- 外部足場全景
建築と土木の連携(BIM/CIMの連携)
ターミナルビルは、桟橋・建物一体構造のため、土木工事との連携が重要だった。土木工事の桟橋建設(別途工事)からターミナルビルの建設まで当社で一貫して施工できたことで、建築工事の施工計画にスムーズにつなげることができた。 また、海上工事特有の資材や仮設資材の共同利用、海上保安部に提出する工事許可申請書の作成などにおいても連携した。
さらに、「BIM/CIM導入による3次元データを活用した生産性向上」に着目し、BIM/CIM連携による施工検証を実施するとともに、土木工事で作成した「ターミナル基礎」全体のBIM/CIMモデルを建築工事に引継ぎ、ターミナルビルのBIMモデルと統合して、各種検討や打ち合わせ、関係者間の情報共有に活用することができた。
BIM/CIMの連携メリットは、建築工事着手時の状況をBIM/CIMモデルを利用して可視化できるため施工上の課題抽出が容易になることに加え、施工方法や施工手順の検討を立体的に行うことができるため円滑な施工や品質・生産性の向上につながる点である。また、施工過程で作成した下部構造、上部構造の3次元データを一体で扱えるため、維持管理業務の効率化にも貢献する。
所長インタビュー
工事所長 楠城 誉章
海上の人工地盤上での工事という今まで経験のない工事を、当初2020年7月に開催予定であった東京オリンピック・パラリンピックまでに完成させなければならないという目標のもと工事を進めました。
土木工事との連携が非常に重要な工事でしたが、ジャケット式桟橋・ターミナルビルともに五洋建設の施工であったため、土木部門と連携を取りながら、桟橋の施工データや現地施工状況などを容易に共有できたことでスムーズに工事を進めることができました。また海上での工事という未経験の工事において、土木部門からの情報共有は工事計画、現場運営を行う上でとても大きな助けになりました。
また、施工時期が台風のシーズンとも重なるため資材の海上への飛散防止には特に細心の注意を払い「海上への流出物・飛散物ゼロ」を職員、関係業者に常に呼びかけました。全職員、協力業者の皆さんのおかげで、厳しい環境や工期を乗り越え、無事に工事を終えることができました。
このような工事に携われたことは非常に嬉しく、工期内に完成できたことで大きな達成感を得ることができました。
工事名称 | 13号地新客船ふ頭ターミナル施設(30)新築工事 | |
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引渡し建物名 | 東京国際クルーズターミナル | |
工事場所 | 東京都江東区青海二丁目 | |
工期 | 2018年6月27日〜2020年6月30日 | |
発注者 | 東京都港湾局 | |
設計者 | 安井建築設計事務所 | |
施工者 | 五洋・東亜建設共同企業体 | |
工事概要 | 構造 | 鉄骨造・地上4階 |
敷地面積 | 21,423.88m2 | |
建築面積 | 6,352.54m2 | |
延床面積 | 19,114.52m2 | |
建築物の高さ | 32.30m | |
基礎 | 人工地盤 鋼管杭基礎(土木工事) |
関連工事紹介
新客船ふ頭建設工事
ジオモニUモニター映像
東京国際クルーズターミナルは当初、オリンピックが開催される2020年7月に開業を予定していた。工期の制約から、ターミナルビルを支える人工地盤の桟橋部にはジャケット式桟橋形式が採用された。ジャケット式桟橋とは、支持層まで到達させた杭の上に、「ジャケット」と呼ばれる鋼管で組み立てられた立体トラス構造物をかぶせることで桟橋を構築する工法である。ジャケット式桟橋の利点は構成部材であるジャケットおよび鋼管杭を同時に複数の工場で製作し、工期短縮ができる点である。さらにジャケット製作と並行して鋼管杭を先行打設することで工期短縮を図った。
施工時には、およそ40m厚の軟弱地盤があることが確認されていた。これを受けて、直径2m、肉厚20〜34mm、長さ50〜53mという大口径の鋼管杭48本を打設することとなった。これほどの大口径、大深度での海上打設は前例がなく、支持層へ到達の確認が課題だった。そこで載荷試験を事前に行い、荷重の大きいターミナルビルを支える地盤の支持力を検証してから施工した。
ジャケットは、1基あたり長さ約70m、幅約30m、重さ1,300tにおよぶ。それを国内最大級の3,000t吊りの起重機船で据え付けた。
桟橋工事における最大の課題はいかにジャケットを計画どおりに据え付けるかである。クレーンで吊るとジャケットはたわむ。吊上げ時のジャケットの変形量を事前にFEM解析により算出し、変形量を考慮した先行杭打設計画を策定。打設精度を確保するためにカメラ付きトータルステーションで視準した映像に三次元画像情報を重ねて表示させることができる構造物誘導システム「AR Navi ジオモニU」を採用した。高精度で杭の打設ができたため、計画通りにジャケット2基の据付作業を完了できた。
- 鋼管杭先行打設状況(1,600t 吊起重機船)
- ジャケット据付状況(3,000t 吊起重機船)
所長インタビュー
工事所長 勝部 歳男
本工事を進める上で、安全面については、海・空の制約がポイントでした。施工場所は船舶が輻輳する東京港第一航路と湾内遊覧船・官庁船舶の桟橋に囲まれた海域であり、また上空は東京国際空港の高さ制限がありましたが、関係官庁、水域利用者と念入りな調整とご理解とご協力得て無事に施工できました。
土木の部分が、完成したときは、ほっとした気持ちでありましたが、ターミナルビルが完成するまでは、土木工事は終わっていないと思っていました。そして、建築工事が無事に竣工して初めてやり遂げた気持ちがわいてきました。
最後に、多くの関係者に支えられ、また部門間連携により東京港の新たなシンボルとなる東京国際クルーズターミナルの建設に携われたことに感謝いたします。