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国道106号与部沢トンネル ― ICT技術で楽に、より良く ―
施工位置図
宮古盛岡横断道路は、宮古市と盛岡市を結ぶ地域高規格道路である。東日本大震災被災地の沿岸部と内陸の強力な連携を推進することによる被災地の早期復興支援、及び平常時も含めた緊急輸送圏域拡大による安全・安心を確保するための復興支援道路として、国道106号の隘路箇所の解消、速達性の確保を目的として整備が進んでいる。
国道106号与部沢トンネル工事は、宮古盛岡横断路道路のほぼ中間部に位置する平津戸松草道路7km区間に計画された、延長1,039m(NATM工法)の2車線トンネルを建設するものである。
革新的技術の導入と活用
当社を代表とするコンソーシアムは、平成30年度・令和元年度の2回にわたり、国土交通省が実施する「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」の公募に採択され、当現場において生産性向上および品質管理高度化に資するICT技術を試行した。
コンソーシアムメンバー
平成30年度 |
五洋建設株式会社(代表)、株式会社インフォマティクス、国立大学法人大阪大学、株式会社ソーキ、パナソニック株式会社、ビーコア株式会社、株式会社日立システムズ |
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令和元年度 | 五洋建設株式会社(代表)、国立大学法人大阪大学、日本システムウエア株式会社、株式会社ネクストスケープ、株式会社日立システムズ |
この2回の採択を経て、現場で多くの技術を試行することにより情報収集共有システム(i-PentaCOL/3D)や遠隔臨場技術等の高度化を図った。ここに、試行した技術のうち4つを紹介する。
@3次元面的測量の自動化
3次元面的測量のデータの流れ
3次元レーザースキャナ機能を有するトータルステーションを用いて、従来個別に実施していたトンネル掘削時の地山変位計測と覆工コンクリートの出来形測量を同時かつ自動で行い、さらにクラウドで自動処理することにより、計測人員と計測時間及び資料作成時間の削減を図った。
従来法と同程度の精度を確保しつつ、地山計測、覆工コンクリートの出来形や巻厚の測定および書類作成作業の効率化に寄与した。
A自律飛行ドローンの適用
ドローンに搭載している機器構成(画像拡大)
GNSS(Global Navigation Satellite System:GPS等の全球測位衛星システム)が利用できない坑内で、カメラやレーザーセンサを用いて自己位置を把握し、ドローンを自律飛行させて点検用写真の自動撮影を行った。
高所作業車による直接目視点検に代わる手法として、今後の実用化に向けた可能性を示すことができた。
Bスマートグラスを用いた遠隔臨場
- スマートグラス
- 遠隔検査対応の例
カメラと通信機能を内蔵したスマートグラスを用いた遠隔臨場を、発注者の協力を得ながら試行した。
立会検査時の移動時間や待ち時間を削減でき、発注者・受注者双方にとって生産性向上に有効であった。また、クラウドには検査記録を保管する機能を備えているため、事後の検査記録の整理や発注者による確認を簡略化することができた。
Cクラウドを用いた発注者連携(i-PentaCOL/3D)
クラウドを用いた発注者連携のイメージ
i-PentaCOL/3Dを用いてBIM/CIMモデルや関連するデータをクラウドに集約し、受注者側の施工状況説明や発注者事務所からの遠隔による監督・確認に用いることを試みた。i-PentaCOL/3DはWEBブラウザ上で利用できるため、関係者はいつでもどこでも最新情報にアクセスすることができる。
クラウドを利用した3次元可視化やデータ一元化は、受発注者間の円滑なコミュニケーションに貢献した。
五洋施工情報収集共有システム(i-PentaCOL/3D)
前述の内閣府・官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の枠組みを活用した「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」で試行した生産性向上および品質管理高度化に資するICT技術の中心となったのは、自社開発した五洋施工情報収集共有システム(i-PentaCOL/3D)だ。現場から得られたデータの蓄積・処理・共有を担い、試行した複数のICT技術に共通する核である。
名称がCollect(収集する)という英単語に由来するi-PentaCOL/3Dは、BIM/CIMを活用して建設現場の様々な情報の収集と共有を行うクラウドシステムで、データ収集・管理、資料作成を省力化するとともに、前述の通り受発注者間のコミュニケーションを円滑にする。
- 貫通点側(貫通点直下にJR山田線が走る)
- 3次元モデルによる挙動監視
(赤い点が計測箇所。変位の方向と大きさが3次元モデルにベクトル表示される。)
与部沢トンネルの貫通点は急傾斜地形で、直下にJR山田線が走る。万が一斜面が崩落すれば、その影響は計り知れない。第三者の安全確保が最優先事項のため、急傾斜地形区間で崩落につながる挙動がないかを監視しながら施工する必要があった。そのような条件下で、安全かつ工期を遵守した施工を実現するためにi-PentaCOL/3Dを活用した。
急傾斜地形区間に測定機器を設置して掘削による地表面変位を測定、その結果をi-PentaCOL/3Dで自動処理して3Dモデル化、斜面の挙動を可視化した。現場を3Dモデル化して地表面変位の向きと大きさをベクトル表示することで、直感的に斜面の崩落につながる挙動がないかを把握できた。
また、従来は測定機器によって得られたデータを担当者が手作業で表やグラフ化していたが、処理が自動化されているため、その作業の省力化につながったほか、崩落につながる挙動がないかをリアルタイムに把握することが可能となった。i-PentaCOL/3Dの活用によるこれらの効果によって、迅速な状況把握と意思決定が可能となり、トンネルの早期開通に貢献した。
寒冷地での施工
脱型後のシート材による保温・保湿養生
施工場所は、一年のうち4か月は氷点下を記録する地域であり、厳冬期は氷点下10℃を下回る。日常的に凍結防止剤が多量に散布される地域だ。このような東北地方の極寒地では凍結防止剤の散布による凍害(スケーリング劣化)の進行が問題となっており、他の構造物と同様に、トンネル覆工コンクリートの品質確保対策が求められた。そこで、坑口から100m区間は耐凍害性配合(空気量7%、水結合比50%、膨張剤20kg/m3)を採用したほか、密実性向上を目的に、脱型まではシートでの保温、およびヒーターと送風機による型枠内の温度を均一に確保する養生を、脱型後はシート材貼付による保温・保湿養生を行った。この結果、施工後の密実性は通常より高かった。
所長インタビュー
工事所長 前田 智之
施工地は厳冬期に氷点下10℃を下回る気温が続く自然条件でした。冬期は連日早朝からの除雪、設備や機械類の凍結防止、スリップ災害防止などの安全管理、コンクリートの品質確保などの対応が必要でした。また早期開通に向けた厳しい工程の中、円滑に施工が進むよう発注者や関係各所、隣接工事との調整を職員ならびに協力業者が一丸となった結果、工期内に工事を終え、発注者からも高い評価をいただくことができました。
現場を円滑に進める方法はいろいろありますが、中でも意識的に取り組んだことが、「現場情報のリアルタイムな共有」です。業務の効率化には情報の共有が不可欠だと考えています。現場は山間部に位置するため通信用の電波が十分に届きません。トンネル内も同様です。そこで、トンネル内および、広域にわたる仮設設備設置範囲をカバーするWi-Fi基地を設け、現場全域で通信可能な状況を作り、情報共有ができる環境を整えました。
また当現場は、様々な革新的技術を技術研究所、土木技術部をはじめ多くの方々の協力を得て試行し、ノウハウ・技術が蓄積されました。ここでの経験がそれぞれの職員の技術力向上、そして当社の技術向上につながることを期待します。
工事名称 | 国道106号与部沢トンネル工事 | |
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工事場所 | 岩手県宮古市平津戸地内 | |
工期 | 2018年1月24日〜2020年8月7日 | |
発注者 | 国土交通省 東北地方整備局 岩手河川国道事務所 | |
施工者 | 五洋建設株式会社 | |
工事概要 | 工事延長 | 1054.5m |
トンネル(NATM) | 1039.0m | |
道路土工 | 一式 | |
掘削工 | 790m3 | |
残土処理工 | 113,300m3 | |
石・ブロック積工 | 一式 | |
排水構造物工 | 一式 | |
側溝工 | 一式 | |
集水桝・マンホール工 | 一式 | |
坑門工 | 一式 | |
コンクリート橋上部 | 一式 | |
プレテンション桁製作工 | 17本 | |
電気室 | 一式 |