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※札幌市HPより
2018年9月6日に発生した平成30年北海道胆振東部地震は、北海道内では観測史上最大となる震度7を記録し、道内の広い範囲において激しい揺れが発生した。一連の地震活動によって、胆振東部地方を中心に、斜面の大規模崩落、液状化やそれによる構造物の沈下など、甚大な被害がもたらされた。近隣震度計で震度5強を記録した札幌市清田区里塚地区では、長さ200m、幅50mの範囲で大規模な地盤の流動と流出が発生した。当工事では、甚大な被害を受けた札幌市清田区里塚地区の市街地約4haの地盤流動化対策を実施した。宅地部には浸透固化処理工法を、道路部には高圧噴射攪拌工法を適用した。
現場位置図(+印は震央を示す)
里塚地区での対策工の鳥瞰イメージ(札幌市より資料提供)(画像拡大)
宅地下の削孔状況(斜削孔)
当工事では、居住している家屋直下の液状化対策が必要であったため、直上の既設構造物に影響を与えることなく地盤改良が可能な浸透固化処理工法を適用した。本工法を居住している家屋直下に適用した初めての事例であり、高精度かつ慎重な施工が求められた。
浸透固化処理工法とは、既設構造物直下あるいはその近傍地盤の液状化対策を行うことを目的として開発された工法だ。地盤を削孔して改良地点に時間経過とともにゲル化する溶液型の薬液を浸透注入し、砂地盤内の間隙水をゲル状の固化体に置換することで砂地盤の液状化抵抗を増大させる。当工法は、既設タンク直下や空港滑走路直下の液状化対策工事で多数の施工実績を有している。
浸透固化処理のイメージ
設計対象範囲の全141宅地に対してスウェーデン式サウンディング試験を実施し、その結果をもとに液状化判定を行ったところ、91宅地で地盤改良が必要であることが判明した。空港滑走路などで実績を積み重ねてきた浸透固化処理工法による地盤改良工事では、1工事での地盤改良パターンは多くても10種類程度だが、当工事においては、宅地ごとに埋設管の位置、宅盤の標高、地下水位、杭基礎の有無などの条件が異なるため、91宅地それぞれの条件を考慮した詳細な改良範囲の設定と改良体の配置設計を行った上で施工した。
被災後の不均一かつ緩い地盤に薬液を注入するため、薬液が地盤の緩み領域に集中的に供給されることで改良ムラが生じて改良地盤の品質が低下するリスクがあった。そのリスクを抑えるための特別な注入方法として、セメントベントナイト(CB)注入併用方式を採用した。改良品質の低下を招く可能性のある空隙などにセメント系の改良材を先行注入してから薬液を注入し地盤改良する方法だ。この方法によって所定の改良品質を確保することができた。
当初、薬液注入工の対象土量は33,000m3(注入率25%)であったが、土質調査・室内試験等の結果、対象土量が約51,000m3(注入率40.5%、うちCBによる一次注入5%)となり、注入すべき薬液の量が2.5倍に増えた。
しかしながら、被災した住民の早期帰還、地域のコミュニティの維持のため、2019年度内の薬液注入完了という当初の工程を遵守する必要があった。そのため、日々工程を厳しく管理するともに、トラブルのない施工に努めた。また、北海道の気候の影響を考慮した対策も重要だった。氷点下の気温が続く厳冬期には、プラントを防寒養生するなど、薬剤・プラント設備・使用機械が凍結によって稼動できなくなるリスクを低減した。また、計画的な除雪車の手配や、積雪時には早朝から施工関係者一体となって除雪作業を実施するなどした。
厳冬期・積雪時の薬液注入状況
当工事には、埋設物損傷リスク・地下水堰上げリスク・複雑膨大な施工情報の管理など、多くの課題があったが、Gi-CIM (Ground Improvement Construction Information Modeling)を用いてそれらの課題を解決した。Gi-CIMとは当社と伊藤忠テクノソリューションズ(株)が共同開発した地盤情報を三次元的に統合・可視化するためのツールだ。Gi-CIMの活用によって、地盤改良工事の「調査・測量〜設計〜施工〜出来形・品質管理〜維持管理」までの一連の工程の中で得られる情報を三次元的に統合、管理して「地中を見える化」できる。
改良部分の3Dモデル(鳥瞰図)
CIMを用いたフロントローディング
試掘調査の結果を3Dモデルに統合し、3Dモデル上で削孔ラインと埋設物の干渉チェックを実施した。設計削孔ラインと埋設物の干渉リスクがある場合は、設計段階で削孔計画を変更した。
削孔ラインと埋設物の干渉チェックのイメージ(画像拡大)
CIMを用いたオペレーターとの情報共有
3DモデルはiPadからも閲覧可能なため、3Dモデルを現場に持ち出して関係者間の情報共有に活用した。例えば、既存埋設物近傍の削孔にあたって、地中を可視化した3Dモデルを用いてオペレーターに埋設物の位置を示し注意喚起することで、安全な施工を実現した。
CIMを用いた大局的な地下水位動態の把握
地盤改良の進捗に伴う地下水位の変動をCIMで管理した。観測井戸で計測した離散的な地下水位の経時変化を3Dモデルに統合し、地区全体の大局的な地下水位動態を可視化することで、状況の変化を迅速に把握することが可能となった。
地下水位動態を3Dモデルに結合したイメージ(画像拡大)
CIMによる多層的な施工情報管理
複数の工種が混在し、宅地・路線毎に改良仕様が異なる複雑で膨大な量の施工管理情報を3Dモデル上で一元管理した。
施工管理情報を3Dモデル上で一元管理するイメージ
画像は施工地を地中から見上げた図(画像拡大)
専門所長 鈴木 定義
里塚地区のコミュニティを存続させるためにも、早期復旧が望まれていました。施工者として早期復旧に貢献できるよう、工程管理を一層厳しく実施するとともに、トラブルを未然に防ぐ対策に注力しました。
当工事の特徴は、「居住している家屋直下への浸透固化処理工法の施工」、「厳冬期の浸透固化処理工法の施工」、「地震による液状化・流動化被害を受けた地域での施工」の3点です。施工にあたっては、特に地震によって液状化・流動化した地盤の改良を行うことに対して、高品質を確保できるのかという不安がありましたが、施工部門と技術部門が連携して施工方法を検討し、配合設計過程で試験施工を実施することで所定の品質を確保することができました。
また、住民の方々の不安を解消するように説明を尽くす必要がありました。説明会・見学会等を通して工事内容をご理解いただいたほか、週1回の頻度で工事広報誌を作成して進捗を報告、時季に応じたイベントの企画(新型コロナウィルス感染拡大前)など住民とのコミュニケーションを心がけました。住民の皆さま、発注者の皆さまのご支援、励ましの言葉に支えられ、無事に工事を終えることができました。
土木設計部 係長 堤 彩人
「居住中の家屋直下の地盤を改良すること」、「液状化被害を受けた非常に緩い火山灰質土が改良対象であること」という2つの条件が、浸透固化処理工法の適用工事としては初めての経験であり、当工事の特徴的な設計条件です。設計段階では、そうした設計条件に起因する「家屋変位のリスク」と「改良地盤の品質不良発生リスク」を克服するため、様々な取り組みを行いました。
まず、当工事では、現地の火山灰質土を用いた一次元模型注入実験により里塚地区の火山灰質土に対する最適な薬液注入率を決定しました。過剰注入よる家屋の変位抑制と注入不足による改良品質の低下を防止できたことに加え、火山灰質土の注入率という地盤工学的にも有用な知見が得られたと考えています。
タイトな工期の中で、現場と技術が一丸となって、対象となった91の宅地ごとに最適な設計仕様を検討しました。また住民ファーストの理念で業務に取り組みましたので、家屋の健全性を損なうことなく高品質な改良地盤を造成できたことに安堵しています。
工事名称 | 清田区里塚地区市街地復旧工事 | |
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工事場所 | 札幌市清田区里塚1条1丁目ほか | |
工期 | 2019年4月2日〜2020年11月30日 | |
発注者 | 札幌市 | |
設計・施工者 | 五洋・伊藤特定共同企業体(構成員:五洋建設(株)・伊藤組土建(株)) | |
工事概要 | 施工範囲 | 約4ha |
薬液注入工 | 51,063m3 | |
深層混合処理工 | 963本 | |
排水構造物工 | 一式 | |
詳細設計 | 一式 |