ページの先頭です
ページ内移動用のリンクです



このページは、ホームの中のソリューション・技術の中のプロジェクトの中のプロジェクトストーリーの中のShatin to Central Link Contract No.1121のページです。

Shatin to Central Link Contract No.1121

現場位置図現場位置(左)とShatin to Central Link路線図(右)(画像拡大)

施工場所施工場所(画像拡大)

香港では2007年から「10大インフラプロジェクト」が進行してきた。中国本土と香港を結ぶ新幹線(2018年9月開通)、香港・珠海・マカオブリッジ(2018年10月開通)など、次々と完成している。地下鉄新線(Shatin to Central Link、2022年開通予定)はそのうちの一つであり、当社をスポンサーとするJVは、ビクトリア湾横断部分の沈埋トンネル、九龍側の開削トンネルと換気塔を担当している。ビクトリア湾を横断するトンネルは、1998年までに5本完成している。都市機能が集積した地域であるため、取付部分の距離や深度を小さくできる利点のある、沈埋工法がすべてのプロジェクトで採用されている。今回は香港においては約20年ぶり6本目の沈埋トンネルの施工となった。
また、今回の工事では、入札段階から発注者と入札参加者との間で、設計・施工内容の協議を行うECI方式が導入された。発注者である香港鐡路有限公司では初めての試みであった。ECI方式の導入によって、様々な背景(国籍、経験、発注者側、受注者側など)を持つ技術者間で活発な議論が行われ、効率的な設計及び施工につなげることができた。

沈埋部全体平面図沈埋部全体平面図

沈埋トンネルの建設

沈埋函製作ヤード沈埋函製作ヤード(画像拡大)

沈埋トンネルは、あらかじめ製作しておいた沈埋函と呼ばれるブロックを海底で繋げることでトンネルを建設する工法である。当工事の沈埋部は11函のRC構造の沈埋函(沈埋函標準断面図)から構成される。沈埋函は、香港島南部に位置する旧採石場をヤードとして利用し、そこで同時製作した。過去の沈埋トンネル工事においても使われていたヤードであったが、当工事着工当初は海水で満たされた入り江となっていた。そこで沈埋函製作のために入り江の入口部分に締切りゲートを設置、入り江内の海水を排水したのち、本沈埋函の形状・レイアウトに合わせたヤードの造成を行った。さらに、中央に位置する沈埋函製作ヤードを囲うように、現場事務所、コンクリートバッチングプラント、排水処理施設、鉄筋加工ヤードを整備した。また、大型資機材やコンクリート材料を船舶で容易に搬入できるよう荷揚げ・積込み岸壁も設けた。
工程上の制約から、沈埋函製作に与えられた期間は1年半であった。使用されたコンクリートの数量は80,000m3、打込み回数は199回と大量急速施工が要求された。施工サイクルを短縮するために、移動式の鋼製型枠を採用するとともに、コンクリートの品質が耐久性・止水性に直結するRC構造であることから、配筋の追加や配合検討、打込み時の対策、さらには製作完了後に水密試験を実施するなど、細心の注意を払い施工した。

沈埋部標準断面図沈埋部標準断面図

製作完了後、ヤード内を再び海水で満たして沈埋函を水中仮置した。その後、沈埋函を1函ずつ浮上させ、引き出した後、艤装場所まで曳航した。艤装場所では、沈埋函を一点係留し、ウインチタワー等の沈設に必要な艤装を施し、沈設場所まで曳航し沈設した。沈設場所は最大2〜3ノット程度の潮流がある海域であったことから、潮流の小さい時期を選定した。沈埋函製作時のコンクリート品質管理の対策が奏功し、沈設後の沈埋トンネル内の止水状況は良好であった。

  • 沈埋函引き出し沈埋函引き出し
  • ウインチタワー設置ウインチタワー設置
  • 沈埋函曳航沈埋函曳航
  • 沈埋函沈設沈埋函沈設

沈埋函の製作について

香港島側取付部は防波堤により静穏度を保たれた海域にあり、発注者の原案では、施工時も静穏度を確保しながら埋立地を造成、開削トンネルの築造、埋立地撤去の手順での施工を想定していた。しかし、埋立地造成・撤去の手間による工期延伸及びコストアップが懸念されたため、当社は、ECIの特徴ともいえる入札段階の柔軟な発想で、開削工法から沈埋工法に変更する提案を行った。施工手順(下図参照)は、仮防波堤を築造した後、既設防波堤を撤去し、E10沈埋函を据付ける。次に取付部のE11沈埋函を親亀・子亀の様にE10沈埋函の上に仮置きする。その後、撤去していた既設の防波堤を復旧し、仮防波堤を撤去し、E11沈埋函を本設する。これにより香港側取付部が起因となる工期延伸を防ぐことができた。

施工手順施工手順

  • 既設防波堤撤去完了既設防波堤撤去完了
  • E11 仮置E11 仮置

沈埋函の製作について

グラベルスプレッダー全景グラベルスプレッダー全景

沈埋部の基礎工は、日本国内で主に採用されている仮支持した沈埋函と砕石基礎の隙間をコンクリート等で充填する方式と異なり、欧州など海外で実績のある砕石基礎上に沈埋函を直接設置する砕石直接基礎方式を採用した。この方式では、沈設後の充填作業を省略できる利点があるが、沈埋函高さを沈設後に調整できないため、厳しい出来形管理が必要となる。また、工程上の制約から月に1函の沈埋函を設置する必要があったため、基礎工の急速施工が要求された。そこで目標の出来高精度を達成するため、砕石の投入と敷き均しを同時に行って、工程を短縮できるグラベルスプレッダー(砕石均し機)を開発した。目視で確認ができない海中でいかにして遠隔で機械を制御し、その位置を把握するかが最難度の課題となり、国際部門と土木部門が連携し取り組むこととなった。

  • 屋内敷き均し試験屋内敷き均し試験
  • 操作室内施工管理システム操作室内施工管理システム

施工手順

当社は、日本国内を中心に砕石均し機や水中ロボットの建造・施工実績を多数有している。これまで培った水中施工機械の遠隔での制御技術、位置を把握する計測・測量技術の経験を生かし、装置の遠隔操作や水中での施工状況をリアルタイムで監視する施工管理システムを開発・導入した。グラベルスプレッダー本体には、RTK−GPSと高精度傾斜計、高精度水圧計など様々な計測機器を搭載し、敷き均し精度を左右するホッパー下端の正確な位置を把握することを可能とした。
大部分が水中にあるグラベルスプレッダーへの砕石の供給は、海上の支援台船上から砕石供給ホースを接続して砕石と海水を混合させて運ぶジェットポンプ方式にて行い、砕石投入と敷き均しの同時作業を可能とした。
実施工では、目標とする±40mmの高さ精度の敷き均しを達成するとともに、日本国内で通常の砕石投入と機械均しを分けておこなった場合と比較すると、施工日数にして1/5程度の急速施工を実現し、沈埋函沈設も所定の工程内で完了させた。

  • 砕石敷き均し施工状況砕石敷き均し施工状況
  • 砕石敷き均し概念図砕石敷き均し概念図

橋梁下かつ高強度の岩盤に対応した仮締切工

沈埋トンネルと九龍側との取付部にあたる延長約80mの海上区間のトンネルは、開削工法にて構築した。施工箇所の上部にホンハムバイパスが通っており、空頭制限の下での作業となった。また、既設橋脚が施工箇所と近接しており、橋脚変位の許容値が非常に厳しく制限されていたため、橋脚変位を抑制する施工方法も要求された。また、香港特有の高強度の花崗岩から成る岩盤層の深度が浅く(掘削層厚が最大7m)、それらの岩盤層を掘削してトンネルを構築しなければならなかった。これらの課題を解決する確実な締切構造の選定が非常に重要となった。
開削工法の締切構造として、橋脚の変位を抑制するために鋼管を岩盤層内にダウンザホールハンマー工法(岩盤をハンマーで破砕しながら鋼管を打設する工法)で打設した。また、締切内の止水のため、鋼管の外側に岩盤層上部まで鋼矢板を打設した(下図参照)。鋼矢板下部の岩盤層内には透水性のある土層が存在したことから、締切内への漏水を防止するため止水対策で薬液注入を行った。施工中は、ホンハムバイパスの変位を自動追尾式のトータルステーションを使用して24時間体制で観測した。一連の対策の結果、橋脚変位を許容範囲内に収め、止水も良好な状態で掘削を完了し、トンネルの躯体構築を無事終えることができた。

沈埋部標準断面図九龍側取付部(海上区間)(左)・バイパス下部作業状況(右)九龍側取付部(海上区間)(左)(画像拡大)バイパス下部作業状況(右)(画像拡大)

締切構造断面図締切構造断面図

所長インタビュー

和泉 敏幸 工事所長工事所長 和泉 敏幸

2014年の入札から当工事に携わり、今年で7年目になります。
当工事は設計施工であり、事前資格審査を通過した業者による技術提案(第1ステージ)、最終技術提案および入札金額提出(第2ステージ)を経て受注業者が決定される「ECI (Early Contractor Involvement)入札方式」のもと、当社をスポンサーとするJVが受注しました。この入札方式による審査には約1年を要し、さまざまな課題に直面しましたが、土木部門をはじめとする関係各部署との連携、協力により乗り越えることができました。

沈埋トンネル工事に関して、当社は日本国内で多数の製作・据付実績がありますが、香港での実績は1995年に1函を据付けたのみでした。しかし今回は前回を遥かに凌ぐ工事規模であり、11函の沈埋函を製作、総延長約1.7kmの区間に沈設する過去に類を見ない壮大なものでした。

当初は沈埋函の設計・施工方法に対する日本と香港の考え方の違いに戸惑い、不安の中でのスタートでしたが、国内外の経験者の力を結集して、さまざまな技術的課題を克服し、工事を順調に進めることができました。また、香港においては20年ぶりの沈埋トンネル工事であり、工事経験のあるスタッフが少ないため、個人の経験に頼らない方法を模索しながらの施工となりました。その代表例が「グラベルスプレッダー(砕石均し機)」で、船舶機械部と連携して開発し、工期の短縮や安全面で非常に大きな効果をもたらし、工事を成功に導く要因のひとつとなりました。

当工事においては、海外工事が初めてという日本人職員が4名おり、日本人職員全体の半数近くを占めました。香港特有の文化・慣習・言葉の違いにより、もどかしさやストレスを感じながらの作業を強いられる場面も見受けられましたが、根気強く、あきらめずに取り組むことによって、現地のスタッフと「One Team」になって難工事を成し遂げることができたことは、工事に関わった職員にとって大きな財産になったと思います。

当工事は、2020年末に竣工を迎えました。
土木部門をはじめ、多大なご支援をいただいた関係各部署の皆様に深く御礼を申し上げます。

工事名称 Shatin to Central Link Contract No.1121
発注者 MTR Corporation Limited(香港鐡路有限公司)
入札方式 ECI方式(Early Contractor Involvement)
設計・施工者 五洋・中国建築*建設工事共同企業体
* China State Construction Engineering (Hong Kong) Limited
工期 2014年12月15日〜2020年12月31日
工事場所 沈埋部および開削部:ビクトリア湾内
沈埋函製作:シェクオーヤード(香港島南部) 
工事概要 沈埋函11函製作 (沈埋函 W= 17.9m〜18.4m、H=7.9m〜8.4m、L=156m*10函+104m*1函)
総延長約L=1,664m、函内仕上げ工事含む
取付部(ホンハム側) L=146m仮設工、仮締切り開削トンネル
(内30m区間 既設高架橋あり)
取付部(コーズウエイベイ側) 既設トンネルと沈埋凾の最終継手L =3.5m
トンネル北側換気塔工事


ページの終わりですページの先頭へ戻る