このページは、ホームソリューション・技術プロジェクトプロジェクトストーリー静岡県 福田漁港・浅羽海岸サンドバイパスシステム工事のページです。
静岡県磐田市にある福田漁港。天竜川から東に約10kmの太田川の河口に位置するこの場所で、国内初の恒久的砂輸送システム「ジェットポンプ式サンドバイパス工法」が、静岡県発注(水産庁・国交省補助事業)により整備され、2014年3月21日に県知事出席のもと完成式典を迎えた。
この工法は、主に天竜川の土砂供給によって福田漁港の上手側に砂が堆積し航路が埋没すると同時に、下手側に位置する浅羽海岸が砂の供給不足により侵食するという2つの課題を解決するシステムだ。
当社は、このシステムの採砂桟橋設置工事をはじめとして、排砂管吐出口工事、排砂管敷設工事、浚渫設備設置工事など、中核となる工事を担当した。
- 現場位置図
- 海岸堆砂・侵食のメカニズム
福田漁港全景 写真提供:静岡県
当工法では、沿岸域に堆積した砂を、侵食された海岸に人工的に輸送し、養浜することで砂浜を復元することができる。
従来は、浚渫船により掘削した土砂を海上運搬したり、ダンプトラックにより陸上輸送を行っていたが、毎年膨大なコストと騒音・排気ガスによる環境問題が課題となっていた。
そこで、今回の事業においては、堆積した砂を採砂桟橋に据え付けた4基の特殊なジェットポンプによって浚渫し、約2.2kmのパイプラインを通して侵食された海岸までスラリー※輸送するという恒久的に砂を移動させるシステムを用いている。
気象・海象の影響を受けず、船舶航行、排気ガス等による自然環境への負荷が軽減されるのみならず、50年で考えるとライフサイクルコストも低減できる、環境面やコスト面に優しいものだ。また日常管理もボタン1 つで必要量の浚渫・輸送ができるため、専門技術者が不要なのもメリットだ。当工法はオーストラリアのカルドノ社が保有する技術で、当社はこの工法に関する国内特許を保有している。
また、ジェットポンプは“Cardno Pump”(カルドノ社製)を使用している。
※スラリー:土砂が混じった海水
システムの仕組み
- 1
- 低圧給水ポンプで海水を取り込み、高圧駆動水ポンプで昇圧して桟橋の配管へ送られる。
- 2
- 桟橋上で液状化水と高圧駆動水の2系統に分岐される。
- 3
- 液状化水はジェットポンプ先端の4つのノズルから下向きに噴射され、海底の砂を液状化する。
- 4
- 高圧駆動水は、ジェットノズルからコーンミキサーに向かって上向きに噴射され、ノズル周辺に発生する負圧によって周辺の砂を吸い込む。
- 5
- 吸い上げられたスラリーは、濃度(含砂率)約30%となって桟橋上の“とい”まであげられる。
- 6
- “とい”の中を自然流下したスラリーは、振動ふるいによって塵芥・礫を取り除かれ、調整槽内にて濃度(含砂率)約15%に調整される。
- 7
- 濃度調整されたスラリーは、スラリーポンプによって海岸の侵食域まで輸送され、養浜する。
※ 34のジェットポンプの仕組みは動画をご覧ください。
採砂桟橋設置工事においては、太平洋に面した港外での厳しい気海象条件での施工となるため、採砂桟橋の築造は作業船ではなく仮設桟橋を利用した陸上施工とした。
桟橋の2列の杭は設計上、片方が斜杭となっていたが、現場状況により杭打機が使用できないため、フライングによるバイブロハンマでの打設を余儀なくされた。
そのため、打設の際は導材を2段とし、上段・下段のガイドローラを調整することで斜杭の角度を保持することができた。また、打設位置管理にはクレーンのオペレータが斜杭の角度を映像でリアルタイムに確認しながら打設できる「ジオモニ」を採用することで、厳しい条件でありながら鋼管杭打設は非常に高い精度で施工できた。
また、浅羽海岸は、アカウミガメの産卵場所であることから、工事の際に発生する騒音や夜間照明が生態環境に影響を及ぼすことが懸念されている。そのため、当工事では、アカウミガメの上陸・産卵時期(5月〜8月)に配慮しながら、作業を進めた。
工事所長 盛英
工事所長の盛英は「採砂桟橋築造は、外洋の港外に築造することで海象条件が非常に厳しく、施工中の安全管理・施工管理に苦慮しました。サンドバイパス設備の構築は、日本初ということで社内外の技術の積み上げが非常に少なく、設備の改造・調整の際には技術的に追い込まれた時期もありました。完成まで約5年間携わり、実際に運転が開始された時には感極まりました。」と工事を振り返る。
また、システムの導入を担当した船舶機械部の岡田英明は「ジェットポンプ方式は国内の事例がない中で、浚渫量125m3/hの計画通り、大量のスラリーが勢い良く揚がってくるのを見たときは感動しました。また、今回は五洋独自の自動制御システムを導入しました。多くの苦労がありましたが、技術者としてのノウハウを得ることができ、大変勉強になりました。」と語る。
船舶機械部 岡田英明
現在は試験運転が開始されており、2015年度までかけて堆砂状況や周辺環境への影響を検証し、年間の土砂輸送量約8万m3を目指している。
海岸の堆砂や侵食の問題は全国で課題となっており、当システムは静岡県をモデルケースに、他の自治体からも注目を浴びると期待される。この新たなシステムを通じて、当社は臨海部における技術力と地域貢献をアピールする良い機会となるであろう。
事業名 | 静岡県福田漁港・浅羽海岸サンドバイパスシステム |
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施工場所 | 静岡県磐田市豊浜地先 |
工期 | 2009年10月8日〜2014年3月17日 現在受注している運転工事は2014年2月27日〜2014年10月31日 |
発注者 | 静岡県 袋井土木事務所 |
システム概要 | 採砂桟橋:L=189.3m ジェットポンプ:4基 パイプライン延長(径):約2.2km(φ300mm) 主ポンプ台数:6台 振動ふるい:1台 目標年間輸送土砂量:約8万m3 試験稼働:2014年3月〜 |