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小波渡トンネル工事(山形県)

長距離道路トンネルで、安全、衛生、自然環境に取り組む。

連続延伸ベルトコンベアによるズリ搬出で、ダンプの走行を軽減。

位置図

トンネル坑内に鳴り響く警報。10秒後、切羽から150mほど後方で待機している作業員たちのもとへ発破の轟音が届く。ここ小波渡トンネル工事現場では、2007年4月より機械掘削から発破掘削に切り替え、着実に掘り進めている。トンネル延長は、わが社の道路トンネル工事としては史上最長クラスの2,496m。それに対し、1回の発破で掘り進める長さはわずか1.0m〜1.2mである。それでも、ダンプカー20台分に当たる大量のズリ(トンネル掘削土)が発生する。

しかし、同現場では、ズリの搬出にダンプカーを使用しない。切羽付近からトンネル坑外へベルトコンベアで搬出を行っているのだ。

連続延伸ベルトコンベアの採用により、ダンプカーの走行回数は大幅に軽減された。発破掘削は1日最大4回行っているので、積載量10トンのダンプカーなら実に80往復しなくてはならない。その必要がないため、ダンプ走行による路面の悪化を抑え、坑内で作業するスタッフの安全を守ることもできる。実際、切羽付近の湧水がある路面を除けば、メンテナンスはほとんど不要という状況。これにより、路面整備費用は通常のトンネル工事に比べて約30%低減できるとのことである。

また、工区の60%はインバート(トンネル底面の保護コンクリート)の施工区間となるが、その施工作業がズリ出しのサイクルに影響されることがないので効率性・安全性も向上する。

さらには、トンネル工事における排気ガスの発生要因で、最も割合が多いのはダンプ走行によるもの。それを軽減することで、CO2の発生量を約26%削減することができた。

当工事を担当する所長の徳永正夫は、「連続延伸ベルトコンベアは、かつて広島の両国トンネル工事でも採用したことがあります。長いトンネルに適した方法で、当工事では地山が悪い中で安全性や労働衛生環境の向上が図れたのでまさに正解でした」と説明する。

このベルトコンベアを採用したことの成果は、発注者であるNEXCO(ネクスコ、東日本高速道路)様からも書面をもって高い評価を頂いている。

相次ぐ崩落と大量湧水の中、安全対策を強化。

最大550トン/時間もの大量湧水も発生

新潟市を起点に青森市に至る高速道路として計画されている、日本海沿岸東北自動車道。このうち、山形県の温海IC〜鶴岡JCT間で建設が進められているのが小波渡トンネルである。規模の大きさもさることながら、着工前から予想していた以上に山の地質が悪く膨張性・崩落性地山のため、大変な難工事となった。

「All Ground Fasten工法(=注入式長尺先受工法」などの地山安定工法を採用し、また地山を支えて崩落を防ぐ支保も増強しながら、慎重な掘削を続けた。それでも、掘り進むほど地山は目まぐるしく変わり、予期せぬ崩落や大量湧水に見舞われた。

2005年9月中旬に異常出水、続いて同年12月上旬には大規模な崩落が発生。トンネル上部10mの位置にあった水脈の影響で560m3の土砂が坑内に流れ出た。

さらに、2006年9月上旬には1時間に最大550トンもの大量湧水が発生。通常時の湧水は30〜100トン/時間だから、その数倍の量が一気にあふれ出てきたことになる。坑内にたちまち25mプールほどの大きな池が出来た。

副所長の浅川敏以は、「普通に掘れる地点は一箇所もなく、ボーリングで水を抜きながら少しずつ前へ進んでいるという状況です。その一方で、打設し終わったインバートに横からの圧力で亀裂が入り、鋼材を入れてコンクリートを打ち直したりもしました」と話す。

いつも危険と背中合わせの難工事。そこで、職員でアイデアを出し合い、安全対策を検討した。その結果、クラクション合図などの作業ルールの周知徹底、インバート部は警報装置の設置、センサー制御で来車を警告する回転灯の設置、坑内・坑外間を結ぶPHS電話連絡網やテレビカメラの導入ほか、多様な安全対策が実践されている。

作業フロー

  • 1. 掘削したズリをホイールローダーで
    クラッシャーに投入
  • 2. クラッシャーでズリを均質に破砕し、
    ベルトコンベアへ
  • 3. ベルトコンベアでズリを坑外へ搬出
  • 4. 搬出したズリは、
    その後、盛土材として100%再利用

自然環境に優しい取り組みも。

同現場では、自然環境の保全にも取り組んでいる。

搬出したズリは、現場内及び隣接工区の盛土材として100%再利用。ズリをベルトコンベアで運搬する際、予めクラッシャーで均質に破砕するため、高品質の盛土として活用できるというメリットがある。

また、絶え間なく流れ出る湧水は、トンネル坑内から4系統の排水管により、清水と濁水に分けて坑外へ。濁水は、仮設ヤードに設置した濁水処理プラントで処理。清水は、中和処理設備でPHを調整し、河川に放流している。当初は60トン/時間の濁水処理プラントのみだったが、200トン、150トンのプラントを順次増設。大量の湧水に対応してきた。

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近隣とコミュニケーションを図りながら、より厳しい条件下の作業へ。

近隣の保育園児からのプレゼント

同現場には、トンネルの掘削開始から2007年4月末までの約2年間で、約1,700名もの見学者が訪れている。ズリをベルトコンベアで搬出しているので、切羽付近まで安全に近づけて見学ができるのだ。見学者には地元の人々も多く、そのおかげで近隣の方と親交を深めることにもつながった。

こんなエピソードもある。この地域で地震があった後、近隣の保育園の園児たちから、「トンネルのおじさんたちは大丈夫?」と安否を気遣う電話があった。徳永所長が保育園まで状況説明に伺ったところ、後日、園児たちからお礼の折り紙が事務所に届いた。

現在掘削している地点より先は、流れ出る湧水が溜まりやすい下り勾配である。今までよりも、さらに厳しい条件下での作業となる。「逆の見方をすれば、それは新しいノウハウの蓄積になります」と徳永所長。トンネルの施工は、長く地道な作業である。しかし、坑内に未来の光が射し込む日は着実に近づいている。

小波渡トンネル工事事務所
工事所長徳永 正夫

現場で培った経験とチームワークで、ゴールを目指す。
この2年間、職員は現場事務所の2階に寝泊まりし、24時間体制で工事を進めてきました。これから先も地質の悪い場所を掘り進んでいきますが、今までの経験とチームワークを糧に、ゴールを目指したいと考えます。
工事名称 日本海東北自動車道
小波渡トンネル工事
発注者 東日本高速道路(株) 東北支社
施工者 五洋・熊谷特別共同企業体
工期 2004.12.28〜2009.9.22
工事場所 山形県鶴岡市堅苔沢〜
山形県鶴岡市三瀬
工事概要 施工延長 L=3,271m
トンネル延長 L=2,496m
明り工事延長 L=775m
NATM工法(上半先進ベンチカット工法、機械掘削、補助ベンチ付全断面爆破掘削)


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