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宍道湖湖底管布設置工事(島根県)

自然豊かな汽水湖の、生態系や美しい景観を守る。

3市1町を潤す水道用水の送水管を、湖底に布設。

島根県水道用水供給源 概要図

島根県は松江市、出雲市、簸川郡斐川町にまたがり、豊富な水を湛える宍道湖。ラムサール条約(水鳥や魚介類をはじめ湿地の持つ幅広い機能を保全するための国際的な条約)にも登録されている、自然に恵まれた湖である。ここには、「宍道湖の七珍味」と言われるシジミ、シラウオ、スズキ、アマサギ、モロゲエビ、ウナギ、コイほかの魚介類が生息し、漁も盛ん。中でもシジミは、島根県の特産品として全国に出荷されている。

宍道湖の最大の流入河川である斐伊川上流では、国土交通省による尾原ダムの建設が進められている。県東部の慢性的な水不足を解消し、良質で安定した水道用水を供給するために、島根県企業局では同ダムを水源とする斐伊川水道建設事業を推進中。送水管路総延長106.7kmの中で、松江市宍道町東来待から対岸の同市大野町までの区間5.4kmに管を布設するのが、宍道湖湖底管布設工事である。

ここで採用された工法が、「鋤曳航工法」である。大野側に設置した大型ウインチでワイヤーを引き、来待側の仮設ヤードで連結した鋼管を湖底に引き出していく。管の前面には巨大な鋤を配置し、土を押し分けて溝を作りながら布設していくという工法である。

工事による湖水の濁りを抑え、デリケートな生態系を保全。

斐伊川の下流、日本海にほど近い宍道湖は、海水と淡水が混ざり合った「汽水湖」である。生態系は微妙なバランスで成り立っており、水中の酸素量が減るような事態が起こると、多大な影響を受けることになる。送水管の布設の際、湖底の土が巻き上げられると、土に含まれた貧酸素水塊*も併せて巻き上げられ、酸素量の減少につながる。しかし、鋤で湖底の土をゆっくり浚渫する「鋤曳航工法」なら、その心配は解消される。
また、鋤による浚渫で湖底にできた盛土は均さずに、同じ宍道湖の斐伊川河口付近に自然堆積した土砂を利用して送水管を埋めた。土砂の埋め戻しの際は、船の周りを汚濁防止フェンスや湖底まで届く汚濁防止膜で囲み、濁りが極力起こらないように配慮した。

当工事の所長である高瀬誠は、「作業前と作業中に水質調査を行いましたが、問題はありませんでした。地元の漁業組合の方にも視察に来ていただき、作業船の上から湖水に濁りがないことも確認していただいています」と説明。湖の生態系、ひいては漁にほとんど影響を与えることなく、工事は淡々と進められた。
*貧酸素水塊・・・海洋、湖沼等の閉鎖系水域で、魚介類が生存できないくらいに溶存酸素濃度が低下した水の塊のこと。

約5,000mの管の布設を、短期間で完了。

シラウオなどは秋口から冬場にかけてが産卵の時期。そこで、島根県企業局と宍道湖漁業共同組合の協議により、湖での管の布設から浚渫土の埋め戻しまでの作業期間は、漁に影響の少ない4〜10月までの7ヶ月間と定められた。
こうした厳しい条件ではあったが、鋤で掘削しながら鋼管をワイヤーで引く「鋤曳航工法」なら、その期間内に布設工事を完了することも可能だった。
「鋤曳航工法」では、まず陸上の仮設ヤードで12mの鋼管を3本溶接し、36mの管にする。それを架台に載せ、鋼管同士のジョイントを逐次溶接しながら、毎分4mというゆっくりとしたスピードで湖底へ送っていく。布設できる管の数は、1日最高5本(36m×5=180m)。この緩やかなペースでも、布設作業は約1ヶ月で終えることができた。

工事主任の竹谷淳は、「夏場の厳しい作業になりましたが、期限の10月末には埋め戻しまでの作業を完了することができました。自然環境を守るだけでなく、短期間で施工できることも、この工法のメリットです」と説明する。

鋤曳航工法 フロー図

  • 1. 鋤組み立て完了
    (長さ17m、幅8m、総重量約32t)
  • 2. 鋤を湖におろす
  • 3. 鋤で掘削を行いながら溝をつくりパイプを布設

環境保護のモデルケースとして、他の自治体も注目。

宍道湖漁業協同組合の立ち会いによる鋤浚渫時の水質確認

過去に「鋤曳航工法」を活用した工事の事例は、海外でも国内でも極めて少ない。というのも、海底のように硬い岩盤や深い場所にはこの工法は適さない。当現場については、湖底が軟らかい粘性土で水深も6m程度。約5,000mもの鋼管であり工期の面でこの工法が有利である。さらに湖の自然環境や景観を守るという大きな課題があったため、この採用に至ったのである。

島根県企業局では10年前から工法を検討し、2年前に「鋤曳航工法」で工事を行うことを決定した。当社は広島県で海底管布設工事の経験を有する高瀬と竹谷を配し、体制を整えて受注を果たしたのである。

珍しい工法だけに注目が集まり、現場には島根県、出雲市、さらに広島県などから約10団体が見学に訪れた。高瀬は、「確かに前例があまりない工法ですが、これを契機に、自然環境保護のソリューションとして他の工事でも活かされていくのではないでしょうか」と語る。
宍道湖湖底管布設工事の竣工をもって、斐伊川水道建設事業における送水管路の整備はほぼ完了した。あとは尾原ダムが2010年に完成すれば、水不足に悩む島根県東部地域を、充実した「水の道」が潤していくことになる。

宍道湖湖底管布設置工事工事事務所
工事所長 高瀬 誠

未知の工法に挑み、新しい「道」を拓く意義。
「鋤曳航工法」は、当社では初めて経験する工法でしたが、特に問題なく工期通りに施工を終えることができました。
新しいことに挑み、ノウハウを蓄積できたことは、意義が深かったと感じています。
工事名称 宍道湖湖底管布設工事
発注者 島根県企業局
施工者 五洋・フクダ・カナツ技建工業特別共同企業体
工期 2005.9.3〜2007.6.2
工事場所 一級河川斐伊川水系斐伊川(宍道湖)
〔起点側〕松江市宍道町東来待地内
〔終点側〕松江市大野町地内
工事概要 施工延長 L=5,400m
送水用鋼管内径 ø700mm
送水能力 26,900m3/日


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