プロジェクト紹介

[海外編 01]巨大商業施設プロジェクト 第1章

「巨大商業施設プロジェクト」新しいシーンを創出する人々の記憶に残るものづくり
ロケーションマップ

 マレー半島の最南端に位置し、人口わずか430万人、面積も東京23区とほぼ同じというシンガポール。天然資源にも恵まれず、独立当時には発達した産業もなかったシンガポールは、国際社会での競争力を高めていくため、工業、金融、貿易を中心に外国資本を積極的に誘致することを基本政策としてきた。2006年のGDPの成長率は、中国、ベトナムに次ぐアジアで3番目の7.9%。アジア諸国の台頭が著しいなか、シンガポールはアジア屈指のビジネスハブ都市国家としてめざましい経済発展を遂げている。
 この地における「国づくり」に早くから関わってきた五洋建設は、得意とする海洋土木にとどまらず、大型商業ビル、オフィスビル、大型コンドミニアムなど、その領域を建築までに広げ高い評価を築いてきた。とりわけ、2002年にシンガポール政府が「わが国をアジアの芸術拠点に」と30年に渡り構想を練った複合文化施設「エスプラネードシアター」建設を手掛けることで、五洋建設の建築部門の評価は決定的になった。そして2006年10月、さらにシンガポールでのプレステージを高めることになった巨大ショッピング複合施設「VivoCity」が竣工した。



リゾート地の対岸、ハーバーフロント地区での再開発計画

完成パース

 「VivoCity」が建設されたハーバーフロント地区は、島全体がリゾート地であるセントーサ島の対岸、シンガポール本島南端のエリアに位置する。かつてこのエリアには、ワールド・トレード・センターや本島とセントーサ島を結ぶケーブルカーの中継駅があるだけだった。しかしこの地域は、セントーサ島やマリーナ地区など、再開発が進む観光スポットに近いエリア。セントーサ島の再開発とともに、ハーバーフロント地区の開発が行われることになり、「VivoCity」はハーバーフロント地区再開発の拠点となるべく建設計画が決まったのである。

ページトップへ


突然の設計変更、1週間あまりで再入札を迫られる

 2002年9月、「VivoCity」建設工事に関する7社による指名競争入札が行われた。当工事の所長、山下一志(プロフィール)は、入札の経緯をこう振り返る。「シンガポールは実績や技術、入札価格といった純粋な競争原理が働く世界。建築分野においてもこれまでの実績が評価され、大手と同じ土俵で勝負ができるようになったということですね」。前述の「エスプラネードシアター」建設工事以来、キープロジェクトで声が掛かるほど、五洋建設の評価は建築分野でも高まっていた。

 そして約1年後の2003年10月、選定企業は五洋建設を含めた3社に絞られた。そこで持ち上がった問題が、突然の設計変更だった。多くの集客を望む施主の意図を十分に汲んでいないという理由から、アメリカ人設計者から日本人設計者の伊東豊雄(※1)氏に急遽変更になったのだ。そこで、新たなデザインをもとに再度入札が行われることになった。わずか1週間あまりで5枚のスケッチをもとに再考案し、新たな見積を提出。そして10月末、五洋建設に仮発注が出たが、その後2ヶ月間にわたって、施主とのタフな交渉が続くことになった。

※1
伊東豊雄氏
1941年京城(現:ソウル)生まれ。1965年東京大学工学部建築学科を卒業。1984年に「笠間の家」で日本建築家協会新人賞を受賞。その後も、日本建築学会賞、村野藤吾賞など数多くの賞を受賞。主な作品に「せんだいメディアテーク(宮城)」、「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2002(イギリス)」などがある。

ページトップへ


決して諦めない、不屈の精神で大型案件に挑む

 仮発注書が出されてから連日のように施主から呼び出しがかかり、交渉を重ねては設計の見直しが入る。メンバーもクリスマス休暇を返上して奔走する日々が続いたが、2003年12月の暮れ、ようやく正式受注となった。結局入札開始より受注まで約1年以上を費やすこととなったが、「決して諦めない」という不屈の精神で粘り強く交渉を続けていったことが奏功し、受注につながったのである。

 そしてもう一つ、土木との連携も受注のカギとなった。実は、「VivoCity」の敷地の下には地下鉄が隣接しており、この駅舎の建設工事を五洋建設が受注し「VivoCity」より一足先に進めていたのだ。この工事中の地下鉄の上に巨大な施設を建設するという状況だったため施工が難しく、完成期日を守るためにも、施主からは、地下鉄工事と連携をとりながら進めてほしいという要望があった。その点、五洋建設のシンガポール営業所では普段から建築と土木が一体となってタッグを組んで仕事をする機会が多く、その総合力が評価された結果となったのだ。

ページトップへ


興奮と喜びの歓声があがるシンガポール営業所

 受注した翌日の12月31日、シンガポール営業所では年度末の納会が開かれた。シンガポールの新たなランドマークとなる約170億円という大型案件、世界的に著名な建築家の設計ということもあり、シンガポール営業所メンバーは興奮と喜びの歓声をあげるなか、山下はプレッシャーを感じていた。「たった33ヶ月の工期という非常に厳しいスケジュールを考えると、『やったぞ!』という思いと、本当に間に合うのかという不安で、正直に言うと素直に喜べない複雑な心境だった」と山下は当時を振り返る。というのも、「VivoCity」は敷地面積9万㎡、延べ床面積は約29万㎡、シンガポール最大規模を誇る地下2階地上3階建のショッピングモール。五洋建設にとっても同国で施工した建築物では最大規模のものとなる。地下を掘るだけでも1年はかかり、さらには隣接する地下鉄の駅舎、伊東豊雄氏の高度な意匠性をどう具現化するかという施工における大きな課題があったのだ。

次頁へ続く


プロフィール紹介
山下一志
  • 山下一志 Kazushi Yamashita
  • 国際事業本部 シンガポール営業所 オーチャードターン工事事務所
    1985年入社 工学部 建築学科卒
  • シンガポールに赴任したのは1996年。現在はオーチャードターン・プロジェクトの所長を務めている。
    休日は、もっぱらスポーツをして過ごす。

ページトップへ