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What's New

閉鎖性海域の水質浄化工法を共同開発
〜流水発生装置で海底の貧酸素解消と富栄養化を低減〜

2004年06月11日

五洋建設株式会社(社長:加藤秀明)、株式会社海洋開発技術研究所(社長:城野清治、本社:佐賀県伊万里市、TEL0955-23-2266)、東京製綱繊維ロープ株式会社(社長:大島義輔、本社:愛知県蒲郡市、 TEL0533-68-3151)と芙蓉海洋開発株式会社(社長:肥海昭男、本社:東京都台東区、TEL03-5820-1181)の4社は、閉鎖性海域の水質改善を目的とした可搬式流水浄化装置による水質浄化工法 「うみすまし」 を共同開発し、このほど東京港野鳥公園隣接海域で実施した実証試験で効果があることを確認しました。効果予測のシミュレーションもできるので、実際の水質浄化に加え事業計画の立案にも活用可能です。
なお、本開発は(社)日本海洋開発産業協会の新規海洋産業創出研究開発補助事業(日本小型自動車振興会の補助事業)として行なわれたものです。

開発背景と経緯

海水の入れ替わりが緩慢な閉鎖性海域では、河川流入や降雨などによる淡水が停滞しやすい上、表層水の水温が上昇しやすいため、上層の海水密度が小さくなる傾向があります。これが進行すると、表層と底層の密度差は大きくなり(=密度成層の形成)、風波などによる水の動きが深くにまで伝わらず、底層の海水は動き難くなります。すると、閉鎖性水域に流れ込んだ有機物が出て行き難くなり、沈降するものは海底に蓄積されます。堆積した有機物はバクテリアで分解されますが、流れの停滞により分解に必要な酸素が補給されず、底生生物は棲めなくなってしまいます。
やがて、その水域では酸素を用いない有機物分解も起こり、硫化水素など悪臭の原因となる物質が発生したり、植物プランクトンの光合成に用いられる栄養塩の一種であるリン酸態のリンが多く溶出するようになります。植物プランクトンが過剰繁殖すると、赤潮ともなって魚貝類に被害を及ぼすばかりでなく、水中深くにまで日射が届くのを妨げるため、底層の水温は上昇しにくく密度成層化を助長するうえ、枯死した大量の植物プランクトンが再び有機物として堆 積するので、水質環境の悪循環を招いてしまいます。

共同開発の4社は、このような閉鎖性海域の問題解消をめざし (社)日本海洋開発産業協会(会長:武井俊文、現在は(財)エンジニアリング振興協会と統合)の新規海洋産業創出研究開発補助事業(日本小型自動車振興会補助事業)である“閉鎖性海域浄化技術の研究開発”に2001年度から3ヵ年にわたって取り組み、横浜国立大学大学院工学研究院の佐々木淳助教授らの協力を得ながら、可搬式の流水浄化装置による水質浄化工法「うみすまし」の開発を果たしました。
本工法は、閉鎖性海域において動力を用いた水流の発生により海底付近の流れの停滞を解消し、溶存酸素の回復を図るとともに、富栄養化の原因となる栄養塩の溶出や底生生物に有害な硫化物を低減するものです。地形を改変したり、恒久構造物の設置を伴わず、大掛かりな設備を要しないので、とくに中小規模の海域浄化において大きな役割を担うことができます。

本工法の原理

本工法は密度成層の発達した閉鎖性海域において、表層水を海底に送り込むことによって発生する循環流を利用するもので、下図のようなトレンチ状の地形となっている場合には特に大きな効果が得られます。
底層部に放流された低密度の表層水は周辺の海水を連行しつつ上昇し、底層部ではこれを補う形で周辺の海水が装置の放水部に向かって流れ込みます。
一方、周辺水との混合で密度を増しつつ上昇した放流水は、自らと同程度の密度の層に達した時点で水平方向に向きを変えて周囲へ広がるため、ショートサーキット現象(=発生する流れが装置の周辺部のみで短絡してしまい、広い範囲に効果が及ばないこと)は起こらず、広い範囲の海水がトレンチ内の海底付近に引き込まれます。

装置発生流量を25m³/分としたシミュレーションによれば、この原理で発生する引き込み流量は装置の純粋な発生流量の10倍以上にも達し、「うみすまし」は密度流の効果という自然の原理を積極的に利用することで、大きな海水交換効率が得られます。

本工法の特長

  1. 密度流の効果を活用する表層取水・底層放水方式の採用で、装置による発生流量の2〜3倍、条件によっては10倍以上の海水混合効率を発揮します。
  2. 可搬式装置なので、場所を大きくとらずに海域浄化を行なえます。
  3. 効果を予測する数値シミュレーションができるので、事業計画の立案に際して、対象海域の条件に応じた仕様設計と効果の事前予測を効率的に行なえます。

試作機による実証試験の結果について

試作機の概要

試作機本体は直径3.6mの円盤状で、4つのフロートによって水表面に留まります。中心軸上に取り付けられた出力7.5kWのモーターで船舶用インペラを回転させ、下向きの流れを発生させます。

設置した試作機
設置した試作機
(クリックで拡大)

4つのフロートの間から吸入された表層水は、フレキシブルホースを通じて底層に送り込まれ、海底面上50cmに立ち上げられた放水ゲージから放水されます。使用電圧は三相200Vで、試作機は陸上からの電気配線です。起動・停止および流量の調整は陸上の操作盤から行います。流量は駆動モーターの回転数変化で調整しますが、試作機では装置発生流量22(m³/min)の中速運転と36(m³/min)の高速運転の2段階設定としています。

実証試験の成果

試作機を東京港野鳥公園に隣接する閉鎖性海域に設置し、2003年7月から2003年10月まで運転する実証試験を行いました。
試験海域は、幅約200m、水深約5mの水路状領域の終端部にあたり、中央部には周辺よりも2m程度深い約100m四方のトレンチ状の地形が存在します。このトレンチ部の中央に装置を設置して流れや水質を測定しました。
その成果は次の通りです。

  1. 運転後の引き込み流量は105m³/分と、純粋な発生流量である36m³/分の約3倍に達しました。
  2. その結果、トレンチ内の海水と周辺水の混合が進み、トレンチ内底層の溶存酸素濃度は運転開始前は0.3(mg/リットル)とほぼ無酸素であったものが、運転後には平均3(mg/リットル)に上昇しました。これは内湾漁場の夏季底層に対する水産用水基準を満たすものです。
  3. さらに、底層無機態リンが75%減少(0.4→0.1 mg/リットル)、底泥中の硫化物も14%減少(5.0→4.3 mg/g)し、水質・底質に改善効果があることが確認されました。
  4. また、密度流の発生状況、水温、塩分、溶存酸素濃度の変化を予測する数値シミュレーションの正確性が現地実証試験のデータによって検証され、これにより、対象海域の状況に応じた流水発生装置の仕様設計、設置台数、設置位置の検討が可能となります。

今後の展開

本工法で使用する装置は、対象海域の状況や設置位置に応じた流量、台数の製造となるため、単品生産を基本としますが、試作機(装置発生流量22〜36m³/ 分)段階の製作費用は、設置コストを含め4千万円、電力使用料は月あたり3万円程度と、大規模水域用の大型浄化装置に比べ低コストでコンパクトな装置を実現しています。開発4社では、本工法を中小規模の閉鎖性海域のみならず、湖沼・ダムなどにみられる閉鎖性水域の水質改善にも活用できるとして、これによる提案を積極的に行なってまいります。

以上



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